第2話:三歳から四歳――積み重ねた努力と高まる期待 ③
四歳の半ばを過ぎる頃には、屋敷に客が頻繁に訪れるようになっていた。
ギルドの幹部、近隣の貴族、果ては王立探索者アカデミーのスカウトまで。目的は全員、噂の「神童アレク」を一目見ることだ。
「アレク様! 我がアカデミーは国内最高の設備と講師陣を揃えております! 五歳でスキルを授かれば、ぜひ特待生として——」
熱弁を振るうスカウトに対し、私は出されたジュースをストローでちゅーっと吸い、短く答えた。
「いかない」
「え……? な、なぜです!? アカデミーでは優秀な友人やライバルと切磋琢磨し、魔力回路の基礎や魔獣生態学を学べるのですよ!?」
「それ、父上のお部屋の本に全部書いてあった。わざわざ遠くのおべんきょうやさんに通うの、じかんの無駄」
私は冷めた目でスカウトを見つめた。
「それに、ダンジョンで必要なのは、仲良しのお友達じゃない。自分の役割をちゃんとやる人。群れて遊ぶところなら、いらない」
スカウトの男はぐうの音も出ないほど口を開け、絶句した。
……まあ、実際のところは「朝早く起きて学校に通うのが面倒くさい」「家で攻略本を読んで自重トレしている方が圧倒的に楽」という省エネ理由なのだが。
だが、応接間の外で聞き耳を立てていた父やギルド幹部たちは、恐怖に震え上がっていた。
「聞いたか……? アカデミーの権威に一切惑わされず、費用対効果と自分に必要な知識だけを見極めている……!」
「四歳だぞ……!? すでにアカデミーの教育課程を全否定し、実戦におけるパーティービルディングの本質に達しているというのか……!」
「なんて恐ろしい子供だ。甘えも、無駄な人間関係も一切排除する冷徹な合理主義者……!」
屋敷中の期待は、もはや「神童」の域を超えていた。
「間違いなく、ヴァルハイト家始まって以来の『規格外』が生まれる」
「五歳の神託の儀で授かるのは、伝説の『聖剣技』か……あるいは世界を揺るがす『神級スキル』か……!」
周囲のボルテージは最高潮に達していた。
当の私はといえば、自分の部屋のベッドに寝転がり、のんびりとアロマの香りを楽しんでいた。
「ふぅ……今日も無駄な付き合いを回避できたな」
鍛錬も、勉強も、人間関係も。
すべては「無駄を省き、安全に快適に強くなるため」に行ってきた。
五歳で授かるスキルが何であれ、私は持ち前の効率化思考で使いこなしてみせる。
自分の未来には、輝かしいロードマップが描かれているはずだった。
——あの「神託の石盤」が、私に絶対的な絶望と嘲笑を突きつけるまでは。




