第39話:大掃除を終えて、特大パフェへ
「「「神だ……! あの少年は、神の使者降臨だぁぁぁぁっ!!」」」
背後から地響きのような絶叫と、涙ながらの歓声を上げる声が聞こえてくる。
崩壊寸前だった王立騎士団の面々は、剣を握りしめたまま地面に膝をつき、感極まった様子で平原の真ん中にひれ伏していた。
それもそのはずだろう。
世界を滅ぼすはずだった十万の魔獣軍団が。
四天王と呼ばれた恐ろしい魔人が。
パラソルを立てて優雅に紅茶を飲み干した一人の少年によって、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗さっぱり消去されてしまったのだから。
「す……凄まじい……! どんな魔法の儀式だったのだ……!?」
「あれほどの軍勢を一瞬で散らしてみせるなんて、間違いなく天から遣わされた救世主様に違いない……!」
騎士たちが涙を流しながら熱心に祈りを捧げ、互いに肩を抱き合って生き残렐の歓喜に打ち震えている。
そんな地鳴りのような騒ぎを綺麗に聞き流しながら、私は少しだけ歩調を速めた。
特製の黒糖キャンディを舐め終えたおかげで、出力40%の反動による頭の痺れもすっかり引いている。
隣を歩くアリスに視線を向けると、彼女はどこから取り出したのか、革表紙の重厚な手帳を手にし、尋常ではない速度でペンを滑らせていた。
「(……パラソル一本で十万の軍勢を完全消去。さらには周囲十キロメートルの空気浄化および環境改善まで一瞬で完遂。これぞ真の『絶対不可侵』の体現……! しっかりと『アレク様偉伝・第十五章』に詳細を記しておかなければ)」
「アリスさん、ペンを走らせる顔が少し怖いですよ。後ろの騎士たちが我に返って追いついてくる前に、早く王都の街へ入りましょう」
私が苦笑いを浮かべながら声をかけると、アリスはハッと我に返ったように表情を和らげ、何事もなかったかのように手帳を仕舞い込んだ。
「大変失礼いたしました、アレク様。あまりの鮮やかさと尊さに、つい記録に熱が入りすぎてしまいました」
「尊いかどうかはわかりませんが……まあ、無事に害虫駆除が終わって良かったです」
リュックのポケットから手帳型の時計を取り出し、パカリと蓋を開けて時刻を確認する。
長針と短針が示していたのは、ちょうど午前十一時三十分だった。
「よし、ちょうど良い時間ですね。このまま街のカフェに向かえば、混雑する前の最高のタイミングでランチにできそうです。もちろん、出力40%で消費した糖分を補うために、特大パフェも忘れずに注文しないと」
「かしこまりました。アレク様の完璧なお仕事に報いるため、すでに王都で最も静かで、かつ極上のパフェを提供するカフェのテラス席をリストアップしてございます」
「さすがアリスさん、仕事が早いですね。やっぱり静かで心地よい場所で食べる甘いものが一番です」
「はい。アレク様の至福のお時間を邪魔するものは、もうどこにも存在いたしません」
ふと振り返ると、遠くの平原で騎士たちが「待ってくれぇぇ! お名前だけでも! お名前だけでも教えてくれぇぇぇっ!」と手を振りながら叫んでいる姿が見えたが、私たちは顔を見合わせる。
頭の不快感も消え、澄み切った青空からは優しい日差しが降り注いでいる。
北の平原を包み込むほのかなラベンダーの香りを背に受けながら、私たちは目的の静かなカフェを目指して、どこまでも平和な足取りで王都の街並みへと向かっていくのだった。




