第30話:王都の脅威と、極秘裏の刺客
玉座の間を支配していた重苦しい沈黙を切り裂くように、禍々しい笑い声が静寂を打ち破って響き渡った。
「フッ……ハハハ! 面白い!」
魔王が地鳴りのような低い声で笑う。その感情に呼応するように、広大な玉座の間を満たしていた紫の魔気が、まるで生き物のように激しく渦巻いた。
最高幹部としての威厳と、想定外の事態に対する冷徹な怒りが、その赤き双眸の奥で狂おしく明滅する。
「Fランクの登録だと? 戯言を! 我が軍のS級拠点を一瞬で無力化し、核心たる魔導具を強奪していっただと……? それは単なる人間などではない。『大魔王様の御威光すら踏みにじる悪魔』の仕業に違いなく、その本性は深淵の闇に潜む狡猾な覇者なのだ!」
魔王の断言に、周囲を取り囲んでいた将校たちは息を呑み、絶句した。
誰もが、人間側に隠されていた「想像を絶する脅威」の存在に凄まじい戦慄を隠せないでいる。
「放置すれば、次はこの魔王城の結界すら破られ、我らの拠点を次々と強奪されかねん。我が軍の威信にかけて、ここで芽を摘み取る必要がある。……ガルバよ!」
「ははっ!」
呼びかけられた四天王の一人、『狂乱のガルバ』は微動だにせず、漆黒の床に膝をついたまま頭を垂れた。
「お前が直接赴け。我が軍が誇る最強の隠密精鋭部隊を率い、その不気味な潜伏者を……拠点ごと跡形もなく抹殺してこい!!」
「御意! その正体不明の化け物めを、一匹残らず叩き潰し、極上の血の海へと沈めてみせましょう!」
ガルバが狂気に満ちた不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がる。その肉体が禍々しい黒い霧へと変わり、瞬く間に玉座の間から姿を消した。
最高幹部によって下された、極秘裏の絶対抹殺指令。
魔王城の門が重々しく開かれ、ガルバが率いる隠密部隊――黒い影の群れが、夜闇に紛れて王都の方角へと静かに滑り出していく。彼らが纏う殺気と魔気は、世界の命運を左右する戦いの前触れそのものであった。
「……王都の闇に蠢く正体不明の影か。大魔王様の手を煩わせるまでもなく、我が手で灰燼に帰してやる」
暗雲が垂れ込める空を見上げ、ガルバは凶悪な舌なめずりをした。
魔王軍が勝手に膨らませた恐怖の誤解と、完璧な手筈で放たれた最凶の刺客。
世界を揺るがす恐ろしい暗雲が、静かに、しかし確実に王都へ――そして、そんな激動など知る由もなく過ごす「一人の少年の平穏な自室」へと、刻一刻と迫りつつあった。




