第25話:最深部の宝珠と、快適の探求者
(空間認識の切り替えを開始。空間属性判定:極上空間――王の玉座の間。ここを私の『メインリビング兼コレクションルーム』と定義する)
『スキル:部屋で快適に過ごす』
直後――神殿最深部を、今までとは桁違いの密度を誇る「黄金色の魔力領域」が波紋のように一瞬で包み込んだ。
『ガ……ッ!?』
振り下ろされようとしていたゴーレムの巨大な石の双刃剣が、空中でぴたりと静止した。
まるで空間の時間が止まったかのように、一歩も進むことができない。
ゴーレムの胸部にある赤色の魔力コアが、壊れた警告灯のように激しく明滅し始めた。古代文明が誇る最前線の防衛機構が、自身の存在理由そのものを根底から揺るがす「未知の異常事態」を感知した証拠だった。
この玉座の間は、もはや死と破壊が渦巻くS級ダンジョンの最奥などではない。
「私、アレク・ヴァルハイトのプライベートリビング」へと、世界の概念そのものが上書きされたのだ。
そして、その新築のリビングにおいて――
不快な重低音を響かせ、巨大な刃を振り回す全長七メートルを超える金属の巨像は。
『新居のレイアウトを著しく阻害し、平穏な鑑賞時間を脅かす、不快で巨大な不要物』
として、逃れようのない絶対的な判定を下された。
【自動清掃――大型不用品・無害化処理】
『シュウゥゥゥゥゥ……ッ!!』
神殿内に満ちていた重圧と死の気配が、嘘のように霧散していく。
それは、まさに圧巻の光景だった。
ゴーレムを形成していた頑丈極まりない古代金属の甲冑が、まるで乾いた砂の城のように足元から音もなく崩れ、光の粒子となって空間に溶けていく。
莫大な魔力を宿し、かつて幾多の探索者を焼き尽くしてきたであろう赤色のコアも、部屋の室温と安全性を害する「不快な熱源」として一瞬で冷却・無害化され、サラサラとした綺麗な光のチリとなって床へ消えていった。
衝撃音すら残らない。血の一滴も流れない。
わずか、五秒。
S級ダンジョンの絶対的な王として君臨していた最奥の守護神像は、悲鳴を上げることすら許されず、綺麗さっぱり「お掃除」されたのだった。
「な……っ……!? 空間の魔力構造が……神殿の防衛術式そのものが、完全に上書きされて……!?」
後ろで見ていたアリスは、手帳とペンを握りしめたまま完全に固まっていた。
彼女の持つ『魔力視覚』には、いま起きている現象の凄まじさがより鮮明に映っていたはずだ。S級ダンジョンの強大な魔力領域が、アレクの一歩によって一瞬で「一室の平穏な空間」へと書き換えられ、その概念に反する巨大なモンスターが「掃除対象」として消し去られたという現実を。
「よし、邪魔な設置物も無くなりましたね」
私は何事もなかったかのように静かにうなずくと、埃一つ残っていない滑らかな床を歩み、目的の飾壇へと向かった。




