第19話:完全オフの休日と、侵入を許さない「絶対領域」 後編
瞬間。
我が家の屋敷全体(敷地内すべて)が、私の絶対的な『自室』として完全再定義された。
『ガッ……!?』
宙に躍り出ていた十数名の暗殺者たちが、空中身体ごとピタリと停止した。
彼らの身に纏うA級の暗呪性魔力。
手に持った猛毒の短剣。
そして彼らの存在そのものが――
『休日の朝の平穏を害する、最悪な害虫および不潔な粗大ゴミ』
として、スキルのシステムによって認識された。
【自動清掃(害虫駆除・空気清浄プロセス):実行】
『シュウゥゥゥゥゥ……ッ!!』
言葉すら残せなかった。
宙で固まっていた暗殺者たちは、まるで不可視の大掃除用アームに掴まれたかのように。
甲冑や毒の短剣といった「不潔な危険物」だけが一瞬で無害な砂となって消滅し――
「ひぇ、ひいいいっ!?」
身ぐるみ剥がされた暗殺者たちは、そのまま敷地外の遥か遠くへと『粗大ゴミとして強制転送』されたのだった。
爆発によって庭に散らばった土煙や煤も、スキルの『自動清掃』の範囲効果により、一秒でピカピカに元通り。
庭の芝生は青々と整えられ、爆破された地面すら元通りの美しい庭園へと自動修復されたのだった。
所要時間、わずか二秒。
「ふぅ……。」
私は窓のブラインドをそっと下ろし、再びソファに腰を下ろした。
「全く、休日にアポイントのない来客とは感心しないな」
冷めかける前に、コーヒーを一口。
静寂を取り戻した室内で、私は再び穏やかに文庫本のページをめくり始めた。
◇
一方、我が家の敷地外――数百メートル離れた路地裏。
「ヒッ……! ひぃぃぃぃぃっ……!!」
望遠用の魔導鏡で我が家を観察していた『黒き蛇』の幹部が、ガタガタと全身を震わせ、その場に崩れ落ちていた。
幹部の目の前の空間が歪み、身ぐるみを剥がされて泡を吹いた部下たちが、ドサドサと路地裏に「不法投棄」されてくる。
「バ……バカな……! 組織が誇るA級暗殺部隊が一瞬で……! 攻撃の仕草すらなく、ただ敷地に足を踏み入れた瞬間に武装を解除され、粗大ゴミみたいに投げ捨てられた……!?」
転送されてきた部下たちの無残な姿を見せつけられ、幹部は恐怖で顔を歪ませた。
「あ……あの屋敷……あの少年の『部屋』は……神の領域(絶対不可侵領域)だ……!! 足を踏み入れた瞬間に、どんな存在だろうと『ゴミ』として処理される……恐ろしい領域だ……!!」
「二度と……二度とあの男に手を出すな!! 組織全滅どころか、世界が消されるぞ!!」
幹部は悲鳴を上げながら、這いずるようにして逃げ去っていった。
さらに、屋敷の反対側の木の上では――
「……凄いです、アレク様」
双眼鏡を覗いていたアリスが、恍惚と頬を染め、手帳に猛烈な勢いでペンを走らせていた。
「あんなスキルの使い方……見たこともありません……! 一体どんな理論でそこまで応用されているのですか……!?」
常識外れなスキルの活用法、そしてその奥に垣間見える魔法の深淵。間近で観察したいという欲求で、胸の高鳴りが抑えられない。
「絶対に……何が何でも専属掃除係になって、一番近くで観察してみせます……!」
(※なお、彼女も不用意に敷地内へ足を踏み入れれば即座に排除されると察し、敷地の外ギリギリの木の上から観察していた)
敷地外の騒ぎなどどこ吹く風で、私はふかふかのソファの上、最高に快適な午後の微睡に身を委ねたのだった。




