第1話:一歳から二歳――「神童」と呼ばれた異端児 ③
その日から、私の「日課」が始まった。
朝起きて、体温と体調をチェック。
庭に出て、木剣の素振りを五百回。
その後、ダンジョンの基礎知識が書かれた入門書を開く。
二歳児の体力など高かが知れている。無理な筋トレをすれば骨格が歪むし、成長期に害が出る。
だからこそ、私は「徹底的な効率化」と「コンディショニング」を意識していた。
疲労が溜まったと感じたらすぐに休む。
食事はタンパク質とカルシウムを意識して摂取する。
そして何より、鍛錬以外の時間は『自分の部屋』にこもり、徹底的に体を休めて精神をリラックスさせること。
最強のパフォーマンスは、質の高い室内環境と十分な休息から生まれるのだから。
無駄な精神論で自分を追い込むような真似は絶対にしない。
それが、私が考えた「一番安全に強くなる方法」だった。
しかし、周囲の大人たちには、それが「異質な天才の仕草」に映ったらしい。
「恐ろしい子だ……」
屋敷の執事が、影でメイドたちに語り合っているのが聞こえた。
「アレク様は、遊びにすら目もくれず、淡々と自己を律しておられる。」
「ええ……二歳にして、すでに完成された騎士のようなストイックさですわ。」
「二歳児といえば、だだをこねて泣き叫ぶのが普通でしょうに……あのお方は、自分の限界を完璧に把握し、寸分の狂いもなく鍛錬をコントロールしておられる……!」
違う。
ただ疲れたから休んでいるだけだ。
だだをこねても体力を消耗するだけで、何のメリットもないからしないだけなのだ。
「アレク」
ある日の夕方、庭で汗を拭いていると、父が真剣な面持ちで歩み寄ってきた。
「はい、父上」
「お前の鍛錬の成果、見させてもらった。……正直、驚いている。我がヴァルハイト家に、これほどの逸材が生まれるとはな」
父は誇らしげに私の肩を抱いた。
「お前なら、間違いなく『五歳のスキル鑑定』で、我が家の歴史に刻まれる圧倒的な神技を授かるはずだ。『聖剣技』か、あるいは属性魔法の頂点『極大爆炎』か……。お前の努力に、神が応えないはずがない」
父の目は、純粋な期待に満ちあふれていた。
そこに下心や嫌味はなく、ただ息子の輝かしい未来を確信している親の顔だった。
「……はい。頑張ります」
私は小さく頷いた。
期待されるのは嫌いではない。
何より、自分自身も「早く強くなって、あのダンジョンの世界へ飛び出したい」と強く願っていた。
知識を蓄え、フォームを整え、体調を管理する。
すべては、五歳で授かるであろう「強力なスキル」を、完璧に使いこなすための準備だった。
(準備は万全だ。どんなスキルが来ても、すぐに実践投入してみせる。)
私は夕日に染まる木剣を見つめながら、己の未来に胸を躍らせていた。
自分が授かるスキルが、ダンジョン攻略とは程遠い『部屋で快適に過ごす(ランクF)』などという、史上稀に見る生活系ゴミスキルであることなど、この時の私は知る由しもなかった。




