第1話:一歳から二歳――「神童」と呼ばれた異端児 ②
二歳。
私のおもちゃは、同年代の子どもが遊ぶような柔らかい積み木でも、ぬいぐるみでもなかった。
「父上、それが欲しいです」
私が指さしたのは、父のトレーニングルームに飾られていた、幼少期用の小さな練習用木剣だった。
「ほう……自ら剣に興味を示すか。いいぞアレク、手に取ってみなさい」
父から渡された木剣は、二歳児の腕には少し重かった。
だが、持ち上がらないほどではない。
私は木剣を握り締めると、まずグリップの位置を確認した。
右手の位置、左手の添え方。木剣の重心がどこにあるかを、ゆっくりと確かめる。
そして――フッ、と息を吐き出し、垂直に振り下ろした。
(……っと、危ない。二歳児の筋力じゃ、木剣の重さに振られて姿勢が崩れる――)
転びそうになった瞬間、私は無意識に体内の『魔力』を足裏と腕に巡らせ、筋肉の補佐に回していた。前世のゲーマー知識で知っていた「魔力による身体強化」の初歩の初歩だ。
ト、と静かな音が部屋に響く。
「……いまの振り」
父の動きが止まった。
側にいた専属の剣術指南役も、目を見開いて固まっている。
「おい、いまの振り……見たか?」
「は、はい……。無駄な力みが一切ありませんでした。肘の締め、重心の移動、刃筋の通し方……それに何より、あの一瞬で完璧に『身体強化の魔力』を同調させて動かしていました。教えられてできる領域ではありません。」
当然だ。
私はこの一年間、モニターに映るプロの探索者たちのフォームを、穴が開くほど観察していたのだから。
脳内で何千回と繰り返したイメージを、ただそのまま体にトレースしただけだ。
(まあ、二歳児の体じゃ物理的に無理があるから、魔力で強引に補強しただけなのだが……)
「まさか……イメージトレーニングだけで、完璧な素振りを再現しているというのか!?」
指南役が戦慄した声をあげる。
「二歳だぞ!? まだ二歳の幼児が、自力で武技の理に辿り着いたというのか……!!」
……そこまで大げさな話ではない。
スポーツのフォームを真似して素振りをする子どもなど、元の世界にもごく普通にいただろう。
だが、期待に目を輝かせる大人たちの加熱ぶりは止まらなかった。




