第13話:過剰なる成果と、優雅すぎる防衛戦
ルミナス平原の午後。
日よけタープの下、ふかふかのクッションに深く腰掛けた私は、冷えた麦茶を喉に流し込んでいた。
「ふぅ……やはり仕事は効率と快適性が全てだな」
依頼目標だった『ヒールハーブ10株』の採取は、自動清掃(分別・抽出モード)によってわずか十秒で完了している。
だが、あまりに範囲が広すぎたせいか、余剰分も含めて五十株もの最高品質の薬草が、私の足元の麻袋に綺麗に収まっていた。
本来なら、ここですぐに撤収してギルドへ向かうのが一般的な探索者の行動だろう。
だが、私はポケットから取り出した金色の懐中時計を見つめ、静かに首を振った。
「定時まで、あと二時間……」
早すぎる帰還は余計な注目を集める。
「どうしてそんなに早いんだ」「どんなスキルを使ったんだ」とギルドで問い詰められれば、対応の手間とストレスで脳のエネルギーを無駄に消費してしまう。
「定刻通りに成果を持ち帰る。それがプロの仕事だ」
私は文庫本を開き、ページをめくった。
木かげを抜ける秋風が実に心地よい。アリスが手際よく淹れてくれた二杯目のハーブティーから、甘い香りが立ち上っていた。
「……アレク様」
タープの横で、膝を揃えてチョコンと座っていたアリスが、真剣な眼差しで私を呼んだ。
「なんです、アリスさん」
「あの……先ほど助けた三人組の探索者さんたちが、あちらで正座したままガタガタ震えているのですが。放置でよろしいのでしょうか?」
視線を向けると、タープからちょうど五メートルほど離れた場所(私の『快適空間』の境界線の外側)で、先ほどBランク魔獣に追われていた探索者たちが、芝生の上に正座して滝のような汗を流していた。
「あの方々、アレク様が本を一枚めくるたびに『ひぃっ!』と悲鳴を上げておられます。『あのお方が本を読み終えた瞬間、俺たちもゴミとして消掃されるのではないか』と恐怖におののいております」
「放っておきなさい。彼らが自発的に正座しているだけです。こちらから立ち去るよう命令するのも、声をかけるのも、エネルギーの無駄です」
「……っ!!」
私の言葉を聞いた瞬間、アリスはハッと息を呑み、何かに開眼したような恐ろしい顔で私を見つめてきた。
「……高潔! どこまでも無駄のない洗練されたお心でございます、アレク様……!」
「……はぁ」
私が深くため息をつく間もなく、アリスは手帳を開くと、破れんばかりの猛烈な勢いで羽ペンを走らせ始めた。
『観測記録:能力の過剰な誇示を行わず、救助した対象に対しても見返りや感謝を一切求めない。徹底した省エネと自己完結による無配慮の美徳……! 凡人の理解を超越したその孤高のお姿、感涙に堪えません!』
「勝手に美徳化しないでください。ただ面倒なだけです」
私はそれ以上の言及を放棄し、手元の本へと視線を戻した。
風が吹き抜けるたび、遠くで正座する三人組から小さな悲鳴が漏れて聞こえる。
横ではアリスが、私がページをめくる動作すら何かの儀式であるかのように見つめている。
非常に集中しづらい環境ではあるが、これ以上動くのもまたエネルギーの無駄だ。
私は冷えた麦茶をもう一口口に含み、定時までの残り時間を静かにやり過ごすことにした。




