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【部屋で快適に過ごす】とかいう不遇スキル、実はダンジョンの概念を書き換える神スキルでした  作者: 静寂 響
第一部:Fランクから始める快適部屋づくり編

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第11話:ルミナス平原の快適庭園

街から歩いて三十分。

青々とした草むらが広がる『ルミナス平原』に到着した。

ぽかぽかと温かい日光、心地よい微風。

絶好の行楽日和だ。

「よし、業務を開始します」

私は平原の真ん中、見晴らしの良い木かげに足を止めた。

普通なら、ここから泥臭く腰を屈めて草むらを掻き分け、一株一株ヒールハーブを探し回るところだろう。

だが、そんな無駄に体力を消費する作業を私がするはずがない。

私は小さなリュックから、四本の折りたたみ式軽量魔導支柱を取り出し、手際よく地面に刺した。

その上に、遮光・遮熱の魔導付与が施された「日よけ布(サンシェード)」を広げる。

「な……アレク様、それは?」

後ろから恐る恐る追従してきたアリスが、目を丸くして問いかけてきた。

「日除けです。直射日光は体力を奪い、皮膚を傷めますから」

「あ、はあ……」

さらに、日よけの下の地面に防水シートを敷き、その上に『極上の座り心地を誇る高密度クッション』を設置。

仕上げに、小型の折りたたみテーブルを置き、冷えた麦茶の入った保冷魔法瓶をセットした。

「設置完了。――これより『採集作業』に入ります」

私はクッションの上に優雅に腰を下ろし、深く背もたれに体を預けた。

完璧だ。日陰、冷たい飲み物、柔らかい座面。屋外とは思えないほど快適な環境が整った。

「あの……アレク様? 薬草の採集作業は……? まだ一株も摘んでおられませんが……」

戸惑うアリスを完全に無視し、私は平原全体(半径百メートル)を視界に収めた。

(定義開始。対象:この日よけを中心とした半径百メートルの平原。ここを私の『一時的な庭園(ガーデン)』と認定する)

【スキル:部屋で快適に過ごす(出力:3%)】

瞬間。

日よけを中心に、透明な魔力の波動がさーっと平原全体を駆け抜けた。

わずか3%の出力。

自分の自室を『庭付きの邸宅』まで概念拡張するだけの、ごくごく些細な空間定義だ。

『自室の庭』に生えている雑草や害虫は、主(わたし)の快適な生活を阻害する存在である。

ゆえに――不要な雑草(ヒールハーブ以外の植物)は退けられ、害虫は消滅し、目的のヒールハーブだけが「自室の観葉植物」として抽出される。

ぽこん、ぽこん、ぽこん。

軽快な音とともに、半径百メートル以内に自生していた十株のヒールハーブが、根を一切傷つけられることなく根元から綺麗にスポンと抜け出た。そして、重力を無視してフワフワと宙に浮き上がると、吸い寄せられるように私の手元へ集まってきたのだ。

私は差し出した手に自動で収まった十株のヒールハーブを、そのままテーブルの上の袋へ放り込んだ。

「よし、採取完了。所要時間、およそ三秒」

作業終了だ。立ったり屈んだりするコストすらゼロ。完璧な省エネ達成である。

しかし、私の隣でその光景を目撃していたアリスは、開いた口が塞がらない様子で固まっていた。

手にしたノートを地面に落としそうになりながら、全身をガタガタと震わせている。

「な……なんという……なんという広域概念改変魔術……っ!!」

アリスは頭を抱え、狂気的な熱量を帯びた眼差しで私と平原を交互に見つめた。

「本来なら広大な平原から手作業で捜索すべき自然物を、ただ『そこにあるべき位置』を空間ごと再定義し、物質の位相をずらして自動回収された……!? しかも魔法陣も詠唱もなしに、半径百メートルもの広範囲を『自身の絶対領域』に塗り替えるなんて……!!」

「……ただの庭掃除ですが」

「ご謙遜をっ! これこそが古の神話に謳われし『創世級領域展開』……! アレク様は薬草を摘むという日常の動作を通じて、世界の理そのものを書き換える概念実験を行っておられたのですね……っ!!」

ガリガリガリガリッ!!

アリスは猛烈な勢いでノートにペンを走らせ始めた。破れんばかりの筆圧である。

『観測記録:アレク様は日よけを設置したのではない。あれは領域展開の基点となる「結界の杭」である。一口含んだ麦茶すらも、高密度の魔力励起による自己精神の安定化儀式と思われる。あまりの深謀遠慮に息が詰まる』

(……もう説明するのも面倒だな)

私は保冷魔法瓶から麦茶をコップに注ぎ、冷たい液体を喉に流し込んだ。

「……ふぅ。予定通り、サクッと終わりましたね。撤収して帰りましょう」

「は、はいっ! アレク様の神業、この眼と手記に永久に刻み込ませていただきましたっ!」

ノートを破らんばかりの勢いで書き込むアリスを余所に、私は早く自室のベッドに潜り込むことだけを考えながら、手際よく日よけを片付け始めるのだった。

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