第6話:概念の壁と、招かれざる客③
いつも本作をお読みいただきありがとうございます!
干し肉からアメ玉に改稿いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします!
俺は背中の巨大なリュックから、二本の折りたたみ式アルミポールと、超軽量のポータブル防水シートを取り出した。
「な……何をする……っ、ゴホッ……!?」
地べたに血を吐いて這いつくばったままのアリスが目を見開く。
俺は慣れた手つきでポールを組み立て、ペグを床の岩肌へ打ち込み、シートをパッと広げた。実家の庭で「不快な蚊と日差しを弾く自室エリア」を作るために、300回以上練習したタープ張りの応用だ。
わずか十秒。
完成したのは、ダンジョンの中央にぽつんと設置された『一人用ワンタッチテント(コンパクトサイズ)』だった。
「テ……テント……!?」
アリスが血の混じった唾を飲み込み、ポカンと口を開ける。
(よし。四方をシート(壁)で囲み、上に屋根(天井)を作り、地面(床)を確保した。――『即席の自室』の完成だ)
俺はテントの中に足を一歩踏み入れ、ファスナーを内側からジッパーで閉めた。
完全なる密閉空間。
(定義開始。対象:このテント内、および『テントを起点とした魔力干渉領域』。ここを俺の『ベランダ(庭)』と認定する)
【スキル:部屋で快適に過ごす(出力:20%)】
ズグンッ……!
テント内から、重苦しい魔力の波動が放射状に広がった。
テントの布地を『境界線』として利用し、外部の崩落したオープン空間全体を「俺の部屋の庭」として強引に上書き定義したのだ。
『シュシュ……!?』
襲いかかってこようとしていたA級モンスター『デス・スコーピオン』が、宙で凍りついた。
ベランダに発生した「不快な害虫(A級モンスター)」および「有害なゴミ(酸性毒)」。
それらは、俺が10年かけて構築した『自動害虫駆除』プロセスにより――
『パァンッ!!』
弾けるような音とともに、巨大なサソリの肉体が光の微粒子となって一瞬で蒸発消滅した。
「ッガ……アッ……!」
次の瞬間、脳味噌を直接殴られたような激痛が俺を襲った。
視界がグニャリと歪み、冷や汗が一気に吹き出す。急激な低血糖だ。強引に広域の概念を上書きした代償として、体内の糖分が根こそぎ持っていかれた。
(ぐ……くそ……頭痛い……っ! 腹減った……!!)
俺は膝をつきそうになりながら、特売の大袋から鷲掴みにしてポケットに突っ込んでいたアメ玉を取り出し、包みを引きちぎって必死の思いで口へ放り込んだのだった。




