第6話:概念の壁と、招かれざる客②
いつも本作をお読みいただきありがとうございます!
干し肉からアメ玉に改稿いたしました。
今後ともよろしくお願いいたします!
だが――事態はそう簡単に収まらなかった。
『――――ズズズズズズズズッ!!』
突然、ボス部屋の奥の岩壁が不気味な黒いモヤに包まれ、地鳴りのような振動を始めた。
「な、なんだ!? ボスはさっき消えたろ!?」
弓使いの少年が悲鳴をあげる。
「かい……そう……わい……きょく……っ!?」
アリスが血の混じった唾を吐き出しながら、目を見開いた。過呼吸を起こし、引きつった声で言葉を絞り出す。
「初級ダンジョンで……そんな現象が……っ! 逃げ……っ、逃げて……A級の……変異種よ……っ!」
黒いモヤを破って現れたのは、漆黒の甲殻を蠢かせる体長十メートル超の巨大蠍――『デス・スコーピオン』だった。本来なら上級ダンジョンの深層にしか湧かない化け物だ。
『シュシューッ!!』
巨蠍が尾の毒針を振り上げ、黒い酸性毒を噴射する。
その凄まじい酸は、頭上の厚い岩盤をドロドロに溶かし、天井を豪快に穿ち飛ばしてしまった。上階へ続く広大な空洞へと空間が崩落し、吹き抜けの広大なエリアへ削り広げられていく。
「ひ、ひぃぁぁぁっ!?」
ガルドたちは完全に泡を吹いて倒れ、股間を濡らしている。
(……チッ、最悪だ)
俺は心底鬱陶しそうに舌打ちした。
見上げれば、酸で溶けてぽっかりと穴の開いた巨大な吹き抜け。
俺のスキル【部屋で快適に過ごす】の基本発動条件は、「壁」「天井」「床」で囲まれた『閉鎖空間』であることだ。
屋根のないオープンな空間では、脳内カテゴリとしての「部屋」の境界線が曖昧になり、自動クリーニングの判定が途切れてしまう。
(天井崩落による『部屋定義』の消失、か……)
だが、10年間の泥臭い室内実験で、そんな仕様の穴はとっくに検証済みだ。
条件が崩れたなら、自分の脳内で「強引に部屋の境界線を再定義」して上書きするしかない。
(あー……めんどくさい。これやると頭痛と低血糖で一気に怠くなるんだよな……)
俺は頭痛の予感に眉をひそめ、ポケットから引っ張り出した安物のアメ玉をガリッと噛み砕きながら、強引にスキルの出力を引き上げ始めた。




