第5話:ダンジョンでティータイムを ④
「……あっちゃー」
俺はマグカップを口元に当てたまま、小さく溜め息をついた。
(参ったな……めざとい奴に見破られた)
目立たず静かに終わらせたかったのだが、どうやらこの銀髪の女は、死にかけの癖に無駄に目が良いらしい。
ガルドたちは女の言葉の意味が理解できず、「は……? 概念……?」「アレクが……?」と、半開きになった口から唾液を垂らして呆然としている。
「凄ま……っ、ハッ……ゴホッ……! なんという……傲慢な……っ」
アリスと呼ばれた女は、激しく咳き込んで口から血を吐きながら、ピクピクと痙攣する腕でミリ単位ずつ泥を這ってきた。
今にも呼吸が止まりそうな瀕死の状態だというのに、その血走った瞳だけが異常な熱量で俺を捉えている。
「私……アカデミーの……アリス・フォスター……っ。お願い……です……私を……あなたの『部屋』に……っ」
呼吸すらまともにできていない。言葉途切れに、血の混じった唾を撒き散らしながら必死に縋りついてくる。
「いや、断ります。狭くなるので」
即答する俺に、アリスは痙攣したまま目を見開いて固まった。
(……というか、血吐きながら這ってくる奴を部屋に入れたら床が汚れる。絶対に嫌だ)
だがアリスは、拒絶されたことで逆に変なスイッチが入ったのか、血みどろの顔のまま、その青い瞳をさらに怪しく狂わせるように輝かせたのだった。




