第5話:ダンジョンでティータイムを ③
「……な、なにが……起きたの……?」
床にへたり込んだままの魔法使いの少女が、掠れた声で呟く。
「ま、また消えた……ボスが一瞬で消去された……!? なんだこの現象は……呪いか!? ダンジョンの神の天罰か!?」
ガルドが髪をかきむしりながら叫ぶ。
彼らは、足元のゴミが消えるようにモンスターが消滅した理由も、急にダンジョン内が快適になった理由も、何一つ理解できていなかった。
ただ一人――部屋の隅で倒れていた「ある人物」を除いては。
「あ……が……っ」
岩陰から、弱々しい声が聞こえた。
全身傷だらけで倒れていたのは、銀髪の美しい少女だった。その制服には、王立探索者アカデミーの高級なエンブレムが刻まれている。
彼女は、血走った瞳で俺を……正確には、俺が椅子に座ってお茶を飲んでいる姿と、その周囲に広がる「目に見えない境界線」を凝視していた。
(……ん?)
彼女の瞳が一瞬、怪しく青く輝いた。魔力視覚か、あるいは高位の鑑定スキルか。
「嘘……でしょ……?」
銀髪の少女が、震える血まみれの指先で俺を指さした。
「ダンジョン全体の……魔力回路を……力ずくで……書き換えてる……? 毒気も……モンスターの存在定義すら……全部『部屋のゴミ』として……っ」
彼女のしわがれ声に、ガルドたちがハッと振り返る。
「な……何を言っているんだ、アカデミーの生徒!? こいつはただの荷物持ちだぞ! Fランクのゴミスキルしか持たない、落ちこぼれだ!」
「……だまり……なさい……っ」
少女は激しく咳き込み、口から血を吐きながらガルドを睨みつけた。
「Fランク……? バカも……休み休みなさい……っ! あの人がやってるのは……領域展開どころじゃない……空間そのものの……『概念改変』よ……!」
少女は血の気の引いた顔で、過呼吸を起こしながら俺へ視線を向け直す。
「あの人が『ここは自分の部屋だ』と……認識した瞬間……このダンジョンは……あの人の『自室』に変貌してるのよ……っ!」




