第5話:ダンジョンでティータイムを ①
『ドシャァン……!』
腹に響く不快な地鳴りとともに、前方で大量の岩くずが崩れ落ちた。
初級ダンジョン最奥部――『主の部屋』。
天井が妙に高く吹き抜けた広大な空洞に、巨大な影がぬっと立ちふさがっていた。
『グオオオオオオオッ!!』
耳をつんざく咆哮。鼓膜がズキリと痛む。
丸太のような腕に鋭い鎌を構えた、初級ダンジョンのボス『オーク・バーサーカー』。その足元には、さっき消去しきれなかったのか、あるいは奥から湧き出たのか、無数のヴェノムスパイダーがワラワラと蠢いていた。
「っ……あ……あ……っ!」
先頭を走っていたガルドが、無様に尻餅をついた。
途中の道で「不気味な消滅現象」に怯え、半狂乱で奥へと逃げ込んできた挙句、最悪のタイミングでボス部屋へ飛び込んでしまったらしい。
「ひ……ヒッ、ひぁっ……!」
魔法使いの女は過呼吸を起こして杖を取り落とし、弓使いの少年は崩れた岩にしがみついたまま、恐怖で股間を濡らしかけている。
ガルドも剣を握る手がガタガタと震え、膝が笑って立ち上がることすらできていない。
(……いや、逃げ道くらい確認してから飛び込めよ)
荷物持ち(ポーター)として一番後ろにいた俺は、汗の染みた重い革リュックを肩で担ぎ直し、冷ややかに天井と周囲の壁を見上げた。
オークの腐肉のような体臭と、湿気たカビ臭さが充満している。不快極まりない。
だが――この空間、広い。
(ふむ……天井の高さは十メートルくらいか。広さは……実家の大広間を二つ繋げたくらいか。でけぇな……)
壁があって、天井があって、地面がある。
境界線がこれだけはっきりしていれば、空間の容積がいくら広かろうが関係ない。
(……よし。ちょっと広いけど、ここ俺の『リビング』ってことにする。文句は認めん)
前を歩く三人が泣き叫びながら岩壁にしがみついているのを視界の端に収めつつ、俺は指先から魔力を滑り込ませた。
【部屋で快適に過ごす】
出力をほんの少し、感覚としては全体の5%程度まで引っ張り上げる。
次の瞬間、目に見えない強烈な波が、広大なボス部屋の全域へと広がっていった。




