第4話:検証の十年間と、15歳の予備校最終試験②
「おい。お前か? 『ヴァルハイトのハズレ』ってのは」
ダンジョン入口の湿気た風の中で、声が頭の上から降ってきた。
振り返ると、手入れの行き届いた金属鎧をジャラジャラ言わせた大柄な男が、威圧するように俺を見下ろしていた。
名前はガルド。どこかのB級探索者の息子で、スキルは【剛力】だか何だかの脳筋タイプだったはずだ。
「なんだよそのヒョロい体。スキルも……なんだっけ、『部屋を片付ける』だっけ? ぷっ、ウケる」
ガルドの背後に立つ、丈の長いローブを着た魔法使いの女と、弓をいじっている少年が、フッと鼻で笑った。弓使いの少年は、つまらなさそうに足元の小石を蹴飛ばしている。
「ガルド様、そんな雑用に構うだけ時間の無駄ですよ。カビ臭い匂いが移ります」
「それもそうだな。おい、アレク」
ガルドが背中から、泥と脂で黒ずんだ巨大な革製リュックを引っ剥がし、俺の足元にドスンと投げ落とした。地面の湿った土が跳ね、靴に付く。
「お前の仕事は『荷物持ち』だ。俺たちが狩った素材と予備のポーション全部担いで、俺たちの三歩後ろを歩け」
「……」
「いいか、絶対に前に出るなよ。腰のナイフも飾りにしとけ。もし魔物に襲われて泣き叫んでも、俺たちは絶対助けねぇからな。まあ、雑用くらいならそのゴミスキルでも務まるだろ」
「……あー、はい。了解です」
俺は視線を合わせず、だるそうに返事をしてリュックのストラップを掴んだ。
「チッ……なんだその態度は。おい、聞いてんのか!」
ガルドが眉をひそめて怒鳴りかけてきたが、俺はすでにリュックを担ぎ直す振答をして背を向けていた。
重い。角が背中に当たって地味に痛いし、革が汗を吸って妙に生臭い。
だが、肩にズシリと食い込むその重みを感じながら、俺は必死で口元がゆるむのを噛み殺していた。
(……最高かよ)
戦闘に参加する義務、ゼロ。
前線で剣を振り回して血ヘドを吐くリスクも、泥まみれになって怪我をするリスクもゼロ。
ただ後ろからノコノコついて行くだけで、実技試験の単位が勝手に落ちてくる。
省エネ。あまりにも完璧な省エネポジション。
ガルドの吐き捨てるような舌打ちを背中で聞きながら、俺は肩に食い込むリュックの嫌な重みを噛みしめた。今の俺には、これが「不戦勝のフリーパス」の重みにしか感じられなかった。




