第6話 静かな群れ
輸送車が止まった時、誰もすぐには降りなかった。
雨だけが車体を叩いている。
「……冗談だろ」
マルコが小さく呟く。
高架道路の脇。
レイジャーが並んでいた。
二十体はいる。
道路脇に座り込み、全員が同じ方向を向いていた。
微動だにしない。
皮膚は灰色。
裂けた口。
濁った爪。
だが、いつものレイジャーみたいな怒号がない。
静かだった。
「撃つか?」
リコが小声で言う。
「待て」
ハンクが制した。
ショットガンを構えたまま、一歩前に出る。
レイジャーは反応しない。
雨だけが降っている。
「……なんだこれ」
バラクーダが舌打ちした。
「フェイダー化したのか?」
「違う」
ママ・ルシアが低く言った。
「セドが静かすぎる」
カイも感じていた。
普段のレイジャー周辺は、もっと荒れている。
怒り。
憎悪。
飢え。
そういう感情が、澱になって渦巻く。
だが今は違う。
不自然なくらい、整っていた。
まるで。
誰かが押さえつけているみたいに。
「……アイスマン」
マルコが呟く。
誰も否定しなかった。
その瞬間だった。
一体のレイジャーが、ゆっくり首を動かした。
全員が武器を構える。
だが襲ってこない。
ただ。
同じ方向を見る。
暗い水没地区。
「クソ、気味悪ぃ」
リコが言った時。
後方の一体が突然立ち上がった。
咆哮。
次の瞬間、群れ全部が動く。
「来るぞ!」
発砲音。
ショットガン。
自動小銃。
雨の中に火花が散る。
だがレイジャーは止まらない。
静かなまま突っ込んでくる。
それが余計に気味悪かった。
カイは鉄パイプを振り下ろす。
頭蓋が割れる。
黒い澱が飛び散る。
だが、普段みたいに荒れ狂っていない。
澱すら静かだった。
「右から回る!」
ハンクが怒鳴る。
統率は正確だった。
元軍警。
こういう時だけ、嫌になるほど頼りになる。
マルコが笑いながら撃つ。
「ハリケーン前に死ぬのは嫌だぞ!」
「黙って撃て!」
リコが叫ぶ。
バラクーダは無言で後退しながら撃っていた。
冷静すぎる。
逃げ道を探してる目だった。
レイジャーの一体がハンクに飛びかかる。
ショットガン至近距離。
肉片。
血。
それでも次が来る。
「数が多い!」
ルシアが叫ぶ。
その時だった。
突然。
レイジャーたちが止まった。
全員。
一斉に。
動きを止める。
雨音だけが残る。
誰も喋らない。
レイジャーたちは再び、ゆっくり同じ方向を向いた。
立入禁止区域。
暗い水没街。
その奥。
黒いセドが静かに流れている。
カイの背筋に寒気が走る。
分かった。
これは偶然じゃない。
もし最初からレイジャーたちが全力で来られていたら。
自分たちは、ここで全滅していた。




