第45話 帰還
アイスマン部隊のボートは金融街を離れた。
難民たちは疲れ切っていた。
それでも生きている。
それだけで十分だった。
*
はぐれドラウナーは別の船へ乗せられていた。
両手を縛られている。
逃げる気力も残っていないようだった。
「話す」
男は何度も言った。
「知ってること全部話す」
アイスマンの副官ベンソンが椅子を持ってきた。
ドラウナーの前へ座る。
カイたちは離れた場所から聞いていた。
しかしベンソンの声は小さくて聞き取れない。
ドラウナーは首を振る。
「知らねえ」
「本当に知らねえんだ」
男は震えていた。
「俺らだって全部知ってるわけじゃない」
「分からねえ」
「上から行けって言われただけだ」
ベンソンは顔色一つ変えない。
「役に立たんな」
ドラウナーは慌てた。
「待て!」
「まだある!」
「まだ話す!」
*
その後も尋問は続いた。
だが。
大した情報は出なかった。
下っ端だった。
本当にそれだけだった。
ドラウナーのリーダーの目的がわからない。
リーダーは略奪だけでなく、何かを探している節があるのだ。
しばらくしてベンソンは部下にドラウナーの処刑を命じた。
*
夕方。
カイたちはネオマイアミへ到着した。
懐かしい匂い。
雑多な騒音。
喧嘩。
商売。
音楽。
全てが戻ってくる。
難民たちはそれぞれの場所へ帰っていく。
金塊。
旧ドル札。
食料。
それらを抱えて。
未来が保証されたわけではない。
それでも。
生き延びるための資産にはなる。
コックローチはいつの間にか姿を消していた。
「帰ったな」
ロイドが笑う。
「ゴキブリらしい」
「またそのうち現れるだろ」
マスタングも笑った。
*
その夜。
カイたちは資料を広げた。
ヘリオスの資料。
地図。
名簿。
端末のデータ。
ロイドが頭を掻く。
「読むだけで数週間かかるぞこれ」
「やるしかない」
カイは答えた。
*
カイは金塊を見る。
今回の分け前。
普通なら人生が変わる額だった。
ロイドは嬉しそうだった。
マスタングらも満足そうではあった。
だが。
カイだけは違う。
「使うのか?」
ロイドが聞いた。
「何に」
「兄貴探し」
カイは頷いた。
「ほとんど使うと思う」
静かな声だった。
「生きてるかも分からねえんだぞ」
「分かってる」
「それでも探す」
ロイドはため息を吐いた。
「生きてるとは思うけどよ」
カイは笑った。
*
窓の外。
ネオマイアミの灯りが揺れている。
金融街から持ち帰った資料。
シェルター。
まだ何一つ解決していない。
だが。
金融街で得たものも確かにあった。
生きて帰ったこと。
そして。
進むべき方向だった。
思えばギャンブルに財産を注ぎ込むリコを笑えない。
自分も生きているかどうかわからない兄の捜索に注ぎ込んでいる。
カイは机の上に兄の古い写真を置く。
軍警としての任務中に行方不明。
「待ってろ」
誰にも聞こえない声だった。




