第44話 夜明け
夜明け前。
最初に異変へ気付いたのはコックローチだった。
「落ち始めたぞ」
全員が空を見上げる。
*
鳥レイジャーだった。
昨日まで金融街上空を埋め尽くしていた群れ。
その一羽が。
ふらりと高度を落とす。
翼が止まる。
そして。
水面へ落下した。
派手な水音。
しばらく羽ばたく。
だが再び動くことはなかった。
「休眠だ」
モーゼスが言う。
その後も。
一羽。
また一羽。
空から落ちていく。
黒い雨のようだった。
大半はそのまま溺死する。
休眠したレイジャーに水から這い上がる力は無い。
難民たちは安堵した。
誰も昨夜は眠れていない。
鳥の群れが戻れば終わりだった。
だが。
朝になっても戻らない。
ようやく希望が見えた。
*
「筏を出すぞ」
マスタングが言う。
難民たちが昨夜までかけて作った筏。
粗末だった。
だが渡れないこともない。
ここに留まる方が危険だ。
*
荷物を積み込む。
はぐれドラウナーも乗せられた。
誰も歓迎していない。
だが追い出せば死ぬ。
男は居心地悪そうに視線を逸らした。
*
筏が出発する。
静かな水面。
昨日までの地獄が嘘のようだった。
沈んだビル群の間を進む。
時折。
休眠した鳥レイジャーの死骸が浮いている。
誰も触れなかった。
*
「船だ」
若い難民が言った。
遠く。
エンジン音。
複数。
全員が顔を上げる。
ロイドが目を細めた。
「イーグルズか?」
コックローチへ聞く。
「知らねえ」
「呼んだのはイーグルズだ」
コックローチは答えた。
「それ以外は知らん」
*
船団は近付く。
やがて。
マスタングの顔が曇った。
「違う」
「イーグルズじゃない」
重武装。
軍用ライフル。
防弾装備。
見覚えのある紋章。
カイも気付いた。
「アイスマン……」
*
船が横付けされる。
部隊が周囲を警戒する。
統率が取れていた。
イーグルズとは明らかに違う。
その中から一人の男が現れる。
ルシアだった。
彼女は周囲など見ていなかった。
真っ直ぐカイを見る。
「無事だったのね」
珍しく安堵した顔だった。
カイは少し驚いた。
「まあ」
「死にかけたけど」
*
ルシアは小さく息を吐く。
「そう」
それだけだった。
だが本当に安心したらしい。
*
ロイドは隣で腕を組んでいた。
何かがおかしい。
コックローチが呼んだのはイーグルズ。
なのに来たのはアイスマンの部隊。
「……なんでだ?」
誰にも聞こえない声だった。
その時。
はぐれドラウナーが前へ出た。
「待ってくれ」
部隊が銃口を向ける。
男は慌てて両手を上げた。
「俺は戦う気はない」
「知ってること全部話す」
「だから撃たないでくれ」
部隊の男がルシアを見る。
ルシアは少し考えた。
そして頷く。
「話を聞く」
「全部」
ドラウナーは何度も頷いた。
助かった。
そう思った顔だった。
*
金融街の上空を見上げる。
最後の鳥レイジャーが水面へ落ちた。
大きな水音。
それを最後に。
空は静かになった。




