第46話 キャプテン・ヘイトクライム
ヨッシーが吹き飛ばされた。
画面の外へ消える。
歓声。
罵声。
拍手。
地下市場の一角は異様な熱気に包まれていた。
「終わりだ!」
「ピーターだ!」
「やっぱりピーターだ!」
*
リコはコントローラーを机へ置いた。
負けた。
準優勝。
画面の中では勝者がガッツポーズをしている。
ピーター・スカイリム。
ネオマイアミ屈指のゲーム廃人だった。
*
崩壊後世代。
通称ロスト世代。
彼らは妙な名前を好んだ。
断片的に残った文化。
そこから語感が気に入った言葉などを適当に拾って苗字にする。
リコもその一人。
リコ・エアドロップ
本人はエアドロップの意味を知らない。
響きが気に入っているだけだ。
格好いいから名乗っている。
そんな奴ばかりだった。
*
ピーターが優勝賞金を受け取る。
リコにも準優勝賞金が渡された。
配給券の束。
思ったより厚い。
思ったより重い。
*
「助かった……」
リコは心の底から思った。
これで夜逃げはしなくて済む。
少なくとも今月は。
だが。
借金そのものが消えるわけではない。
来月になればまた同じだ。
*
「真面目に働くしかないな」
声がした。
聞き慣れた声だった。
リコは嫌そうな顔をする。
「帰れ」
「酷いな」
アーリックだった。
*
長い髪。
派手な服。
芝居がかった仕草。
劇団員。
役者。
詩人。
自称芸術家。
そして。
定職無し。
*
「ギャンブルもサルベージもやめろ」
アーリックが言う。
「働け」
「お前だけには言われたくねえ」
リコは即答した。
*
アーリックは劇団へたまに顔を出す。
だが毎日いるわけではない。
まともに働いてもいない。
そのくせ説教だけはする。
ネオマイアミの恥。
そう呼ばれていた。
*
「ところで」
アーリックが言う。
「カイとロイド帰ってきたらしいぞ」
リコは顔を上げた。
「は?」
*
「金融街」
「生きて帰った」
「結構な大仕事だったらしい」
リコは目を瞬かせる。
カイは分かる。
だが。
「ロイドも?」
「ああ」
「ロイドが?」
「ロイドが」
*
リコはしばらく黙った。
驚いていた。
ロイドが裏稼業へ首を突っ込むとは思っていなかった。
それ以上に。
自分へ何も相談がなかったことに驚いた。
「マジかよ……」
*
「置いてかれたな」
アーリックが笑う。
「うるせえ」
リコは舌打ちした。
*
大会会場を出る。
地下街はいつも通り騒がしい。
商売人。
ギャング。
酔っ払い。
サルベージャー。
雑多な人間が行き交う。
*
「久しぶり」
女の声だった。
リコの足が止まる。
振り返る。
そこにいた。
ナディアだった。
五年ぶりだった。
かつての相棒。
カイと組む前。
最も長く行動を共にしたサルベージャー。
最後は最悪だった。
報酬の分配で揉めた。
殴り合い寸前まで行った。
そして別れた。
*
「地下に潜ったんじゃなかったのか」
リコが言う。
「潜ってた」
ナディアは答えた。
「昨日まで」
沈黙。
気まずい。
五年という時間は短くなかった。
「で」
リコが言う。
「何の用だ」
ナディアは小さく笑った。
「仕事」
その言葉で全てを察した。
サルベージャーは金に困る。
金に困ったサルベージャーは仕事を探す。
昔から変わらない。
「依頼主はヤクザ」
リコは顔をしかめた。
「帰る」
「待て」
ナディアが腕を掴む。
「賞金首だ」
「興味ない」
「高額だぞ」
「もっと興味ない」
「借金返せるぞ」
リコの足が止まった。
ナディアは勝ち誇った顔をした。
「名前は」
少し間を置いて言う。
「キャプテン・ヘイトクライム」
リコは聞いたことがなかった。
だが。
ナディアの顔は本気だった。
久しぶりの相棒は。
どうやら面倒事を持ってきたらしい。




