第42話 隠し金庫
上下からレイジャーの咆哮が響く。
探索隊は階段を駆け上がった。
逃げ場はない。
まだ声は遠いが戦うしかない。
しかし人数がいるとはいえ複数のレイジャーに鉄パイプや棒切れで挑むのは無謀だ。
「こっちだ!」
ロイドが叫ぶ。
見覚えのあるフロアだった。
動画で見たオフィス。
偶然だった。
だが今はその偶然に賭けるしかない。
*
カイは一直線に壁へ向かった。
パネルを外す。
隠しレバー。
暗証番号。
金属音。
壁が開く。
全員が固まった。
「おい」
モーゼスが振り返る。
「何で知ってる」
「後で説明する!」
ロイドが怒鳴る。
その間にもレイジャーは近付いていた。
*
金庫の中には。
拳銃。
弾薬。
資料ケース。
金塊。
古いデータ端末。
カイは拳銃を掴む。
弾を確認した。
「五発しかない」
静寂。
「五発?」
マスタングが顔をしかめた。
「足りねえな」
*
ロイドは既に動いていた。
キャスター椅子を集めている。
「おい難民組!」
若い難民たちが振り返る。
「そのコピー機!」
廊下の大型複合機を指差す。
「階段の所まで持ってってくれ!」
「何する気だ!」
「いいから!」
難民たちは文句を言いながらも動いた。
*
ロイドは消火器も引き剥がす。
安全ピンを抜く。
レバーを握る。
何も出ない。
静寂。
「……」
「……」
「動くわけねえだろ」
モーゼスが呆れた。
「二十七年経ってんだぞ」
「クソ!」
ロイドはそのまま消火器を抱えた。
鈍器として使うことにしたらしい。
*
その時だった。
カイが階段を見た。
心臓が妙に落ち着いている。
恐怖はある。
だが頭は冴えていた。
暗闇の向こう。
見えないはずなのに。
「上から二体」
カイが言う。
「来る」
全員が振り返る。
「見えたのか?」
「いや」
説明できない。
だが分かった。
いる。
確実に。
*
十秒後
レイジャーが現れた。
全力疾走。
唸り声。
裂けた口。
「待て!お前が撃つのかよ!」
マスタングが叫ぶ。
構わずカイは拳銃を構えた。
銃は自信がある。
兄から直接教えてもらった。
一発。
二発。
三発。
レイジャーは止まらない。
四発目で一体目が崩れた。
最後の一発。
まだ兄がいた頃、教えられた構えで。
二体目の額を撃ち抜く。
レイジャーはカイの目前で倒れた。
二体を五発で仕留めるのは上出来。
セド能力がある。
銃も使える。
俺はただの学生なんかじゃない。
そう思った。
しかし。
カイは拳銃を見る。
「使い切っちまった!」
「下はここにあるものでなんとかしよう!」
ロイドが叫ぶ。
下階から二体。
唸り声。
ロイドがかき集めたキャスター椅子を蹴飛ばした。
椅子が階段を転がる。
一体目が足を取られる。
転倒。
後続も巻き込まれる。
「今だ!」
難民たちがコピー機を押した。
大型複合機。
階段へ落ちる。
轟音。
金属音。
骨が砕ける音。
二体が下敷きになった。
階段が静かになる。
「やった!」
若い難民が歓声を上げた
だが。
カイは笑わなかった。
「まだいる」
全員が止まる。
「何?」
「上」
静寂。
誰も何も見えない。
だがカイは確信していた。
「一体だけ」
「来る」
全員が武器を構える。
鉄パイプ。
ナイフ。
消火器。
人数では勝っている。
囲めば倒せるかもしれない。
だが相手はレイジャーだ。
まともにやり合えば間違いなく怪我人が出る。
下手をすれば死人も出る。
「待て」
ロイドが言った。
ポケットを探る。
取り出したのはスマホだった。
エステバンの遺品。
「何してる」
カイが聞く。
「動画だよ」
ロイドは画面を操作した。
「消し忘れてた」
数秒後。
スマホから音楽が流れ始める。
陽気なレゲトン。
歓声。
笑い声。
酒場かパーティ会場で撮られた動画らしかった。
「そんなもんで――」
モーゼスが言いかける。
「レイジャーは音に寄る」
ロイドが遮った。
「試す価値はある」
スマホを金庫の奥へ放り込む。
動画は流れ続ける。
陽気な音楽。
歓声。
笑い声。
生きていた頃の人間の声。
全員が物陰へ隠れた。
息を殺す。
*
数秒後。
最後のレイジャーが現れた。
唸り声。
血走った目。
だが獲物ではなく。
音へ反応した。
首を動かす。
そして。
金庫の奥へ向かって全力で走った。
「今だ!」
マスタングとモーゼスが飛び出す。
重い扉を押す。
レイジャーが振り返る。
だが遅い。
轟音。
金庫の扉が閉まった。
直後。
中から激しい衝突音が響く。
金属を叩く音。
咆哮。
そして。
レゲトンの音楽。
歓声。
笑い声。
それらが混ざり合い、不気味な反響となって金庫の中から聞こえ続けていた。
ロイドは小さく息を吐く。
「悪いな、エステバン」
*
静寂が戻る。
生き残った者たちは顔を見合わせた。
拳銃は空。
だが全員生きている。
辛くも死線を超えたのだった。




