第33話 学生
旧湾岸倉庫群が見えてきた。
崩れたクレーン。
海に沈みかけたコンテナ。
錆びた倉庫群。
その向こうには金融街の高層ビルが並んでいる。
ネオマイアミの人間なら誰でも知っている場所だ。
だが実際に足を踏み入れる者は少ない。
遠い。
危険。
そして何より、金になるものは大抵持ち去られている。
「おい」
マスタングが振り返る。
「勝手な行動はするなよ」
カイは返事をしなかった。
代わりにロイドが答える。
「分かってる」
「お前じゃない」
マスタングはカイを見た。
「そっちだ」
カイは舌打ちした。
「何だよ」
「何だよじゃねえ」
モーゼスが口を開く。
「金融街は初めてだろ」
「だから?」
「だから学生は学生らしくしてろ」
学生。
その言葉が気に入らなかった。
軍警学校に籍はある。
それは事実だ。
だが真面目に通っている訳でもない。
配給目当てで顔を出すだけだ。
それに。
レイジャーを殺した回数なら、軍警の末端より多い自信がある。
それでもリコなしでは学生扱い。
リコは一つだけ年上なのに老けて見えるからか、サルベージャーのキャリアがそこそこあるからか、ガキ扱いはされない。
サルベージャーとしての能力はリコに劣るはずがない。不当な評価を受けている気分だ。
ロイドは学生扱いに全く気にしていないようだが。
「納得してねえ顔だな」
マスタングが笑う。
「してねえよ」
「だろうな」
モーゼスも珍しく笑った。
「だが今回は従え」
「何かあった時、真っ先に死ぬのはそういう奴だ」
カイは黙る。
反論したかった。
だが言い返せなかった。
リコなら何と言っただろう。
たぶん。
笑っていた。
そして勝手に危険な場所へ入っていただろう。
その考えが頭をよぎる。
カイは顔をしかめた。
「着いたぞ」
ボートが桟橋に接触する。
旧湾岸倉庫群。
金融街の入口。
そして。
誰かに先を越された形跡が、すぐに見つかった。
倉庫の扉が開いている。
最近こじ開けられた跡だ。
足跡もある。
「……先客か」
マスタングが呟いた。
モーゼスはしゃがみ込み、足跡を調べた。
「新しいな」
「数日以内だ」
ロイドが顔をしかめる。
「軍警か?」
「違う」
モーゼスは首を振った。
「もっと人数がいる」
「十人以上だ」
その時。
遠くの倉庫の窓に何かが動いた。
人影だった。
そしてすぐに消える。
マスタングはため息をついた。
「面倒なことになったな」
カイは無意識に鉄パイプを握る。
金融街探索は。
どうやら宝探しだけでは終わらないらしかった。




