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第30話 第七施設



第七施設は地図に存在しなかった。


HELIOSの正式資料にも記載がない。


あるのは輸送記録だけだった。


それも断片的なもの。


エステバンは専用車の後部座席で資料を閉じた。


窓の外には海が見える。


曇り空。


遠くに貨物船。


ネオマイアミは今日も動いている。


だが昨夜の男の言葉が頭から離れなかった。


国家も欲しがる。


企業も欲しがる。


軍も欲しがる。


あれは単なる脅し文句だと思っていた。


少なくとも昨日までは。


車が停止する。


高いフェンス。


監視塔。


武装警備員。


施設名はどこにも書かれていない。


二重三重の認証を通過し、地下へ降りる。


案内役の研究員は終始無言だった。


長い通路。


消毒液の匂い。


閉ざされた扉。


やがて巨大な観察室へ到着する。


ガラスの向こうに男がいた。


拘束具。


鎮静剤投与用の管。


監視カメラ。


囚人のようだった。


浮浪者だと聞かされている。


年齢は五十四歳。


だが。


エステバンは資料を見直した。


五十四歳。


どう見ても三十代だった。


肌に皺がない。


筋肉も異常に発達している。


研究員が説明する。


「発見時は極度の衰弱状態でした」


「現在は?」


「ご覧の通りです」


男は俯いている。


しかしその肩が微かに震えていた。


「感染者です」


研究員が言った。


「原因は?」


「不明です」


「ウイルスでは?」


「現時点ではそう考えられています」


歯切れの悪い答えだった。


その時だった。


男が突然顔を上げる。


目が合った。


次の瞬間。


男が叫ぶ。


拘束具を引きちぎろうと暴れ始める。


ガラスが震える。


警報。


研究員達が慌てて走る。


男は何かを叫んでいた。


言葉のようにも聞こえる。


しかし意味を成していない。


やがて鎮静剤が投与される。


男は崩れ落ちた。


静寂が戻る。


「治療法は」


エステバンが聞く。


研究員は首を横に振った。


「ありません」


今度だけは即答だった。


別室へ移動する。


壁一面のモニター。


検査結果。


脳波。


細胞分析。


遺伝子情報。


理解できない数値が並ぶ。


一枚の資料が目に止まった。


老化関連因子。


異常値。


研究員は言った。


「まだ仮説ですが」


「老化を抑制している可能性があります」


エステバンは沈黙した。


不老。


若返り。


そんな話は投資家向けの詐欺広告でしか見たことがない。


だが先程の男を見た後では笑えなかった。


視線を落とす。


机の上に輸送記録が置かれていた。


発電設備。


医療機器。


冷却装置。


特殊薬品。


量が異常だった。


一つの研究所にしては。


そして人員名簿。


エステバンの目が止まる。


ある研究員の名前。


死亡報告書で見たことがあった。


三年前に事故死している。


しかし名簿には現在も在籍中と記されている。


別の名前。


今度は存在しない。


社員データベースに登録されていない。


エステバンはゆっくり資料を閉じた。


施設を出る。


夕暮れ。


海風。


遠くにネオマイアミの高層ビル群が見える。


昨夜の男の言葉が蘇る。


『生き残るのは情報を持つ者だけだ』


エステバンはポケットから紙片を取り出した。


連絡先。


捨てるつもりだった。


だが指は動かない。


しばらく見つめた後。


紙を折りたたむ。


そして胸ポケットへ戻した。


まだ連絡はしない。


だが。


もう無視することもできなかった。

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