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第27話 集合場所



 集合場所は旧下水処理場だった。


 ネオマイアミ南端。


 軍警管理区域の境界近く。


 夜に線消しが始まると誰も近寄らない場所だ。


 腐った水と薬品の残り香が湿った空気に混じり、崩れたコンクリートの隙間からは黒い水がゆっくりと流れている。


 カイとロイドが到着した時には、すでに数人集まっていた。


 イーグルズ。


 革ジャン。


 煙草。


 古いライフル。


 前に会った男もいる。


「学生」


 男はそう言った。


「逃げなかったな」


「金がいるからな」


 カイが答える。


「良い心掛けだ」


 男は笑った。


「俺はマスタング」


「今回のまとめ役だ」


 元整備士らしい。


 油まみれの作業着に革ベストを重ねていた。


 その隣には別の男がいた。


 四十代。


 痩せている。


 背中には工具と金属探知機。


「モーゼスだ」


 マスタングが言う。


「サルベージ屋」


「旧世界のゴミ拾いで生きてる」


「ゴミじゃない」


 モーゼスが訂正した。


「歴史だ」


 誰も聞いていなかった。


 その時。


 足音。


 小柄な影が近づいてくる。


 ボロボロのパーカー。


 年齢は十歳くらい。


 コックローチだった。


「……学生?」


 第一声がそれだった。


「遠足じゃなかったのか」


「お前も子供だろ」


 カイが言う。


「俺は仕事」


「お前らは学生」


 妙に説得力があった。


 マスタングが地図を広げる。


「今回の仕事はここ」



 水没区域の北端


 旧港湾倉庫群。


 物資回収。


 表向きはそれだけだ。


ロイドは地図を見る。


 そして気付く。


 HELIOS本社跡。


 そこから数キロしか離れていない。


 ロイドとカイの視線が一瞬だけ合う。


 近い。


 近すぎる。


 下見くらいならできるかもしれない。


 マスタングは気付いていない。


 モーゼスも。


 コックローチも。


「勝手な行動は禁止だ」


 マスタングが言う。


「今回は人手不足でガキまで動員してる」


「問題起こしたら次はない」


 コックローチが鼻を鳴らす。


「次があると思ってんのか」


「あるさ」


 マスタングは平然と答えた。


「働ける奴にはな」


 一瞬だけ。


 コックローチの表情が変わった。


 ほんの一瞬。


 冷たい目だった。


 ハミングバードでは、


 働けない子供は消える。


 病気。


 事故。


 行方不明。


 理由はいくらでもある。


 コックローチは知っていた。


 だが口にはしない。


密輸用トンネルを一同は無言で進む。



「出るぞ」


 マスタングが言う。


 長いトンネルから出る。



 湿地から吹く風が生暖かい。


 肌にまとわりつく湿気が不快で、泥と腐植土の臭いが鼻の奥に張り付く。


 遠くで何かが鳴いた。


 鳥とも獣ともつかない不気味な声が闇の向こうで反響し、水面の葦がざわりと揺れた。


 軍警のサーチライトが夜空を横切る。


 白い光の帯は雲の底をなぞりながらゆっくりと湿地を掃き、時折こちらの方角へ伸びてくる。そのたびに全員が無意識に身を低くし、光が逸れるまで息を潜めた。


 境界線の向こうでは監視塔の赤い警告灯が点滅している。


 見つかれば拘束で済む保証はない。


 この先は、ただの物資回収ではなかった。


 カイは荷物を背負い直した。


 HELIOS。


 金庫。


 そしてスマホの動画。


 ようやく、その場所へ近づこうとしていた。

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