第26話 コックローチ
少年は軍警の装甲車を数えていた。
一台。
二台。
三台。
いつもより一台多い。
それだけ確認すると、建物の陰から離れる。
報酬は缶詰半分。
悪くない仕事だった。
ネオマイアミでは、子供は透明人間だ。
軍警は見ない。
企業は気にしない。
ギャングは邪魔でなければ放っておく。
だから子供には価値があった。
南区画。
市場。
配給所。
検問所。
路地裏。
大人が入れない場所は山ほどある。
少年は配達をする。
監視もする。
伝言も運ぶ。
落とし物も探す。
そして時々盗む。
誰かがそう呼んだ。
コックローチ。
以来、その名前になった。
昼過ぎ。
少年は潰れたクリーニング店へ入る。
ハミングバード。
ネオマイアミ最大の子供ネットワーク。
組織というより巣だった。
伝言。
監視。
物資運搬。
行方不明者捜索。
子供達が街を飛び回る。
だからハミングバード。
店の奥では郵便局長が新聞を読んでいた。
「仕事だ」
紙切れが一枚。
湿地帯。
物資回収。
コックローチは眉をひそめる。
「湿地かよ」
「嫌なら断れ」
「断ったら?」
「別のガキに回す」
少年は舌打ちした。
湿地は好きじゃない。
沈む。
臭い。
虫が多い。
何より、
戻らない奴がいる。
「依頼主は?」
「イーグルズ」
少し意外だった。
郵便局長は続ける。
「正確にはイーグルズの仕事を受ける連中だ」
「サルベージ?」
「らしい」
少年は紙を見る。
報酬は悪くない。
保存食。
浄水剤。
乾電池。
そして現金。
「珍しく気前いいな」
「人手不足だからだろ」
郵便局長は新聞を畳んだ。
「学生二人も同行する」
「学生?」
「学生」
コックローチは笑った。
「遠足か?」
「知らん」
「だが湿地へ行くらしい」
少年は依頼書をポケットへ突っ込んだ。
学生。
サルベージ。
湿地。
ろくでもない組み合わせだ。
「集合は明日の夜だ」
郵便局長が言う。
「遅れるな」
コックローチは手を振って事務所を出た。
外では夕陽が沈みかけていた。
軍警の飛行船が空を横切る。
ネオンが灯る。
市場が騒がしくなる。
ネオマイアミの夜が始まる。
湿地。
学生二人。
イーグルズ。
どう考えても面倒な匂いしかしなかった。




