第25話 ゲーセンにて
翌日の夜。
カイとロイドは、南区画のゲーセンへ来ていた。
ネオンは半分死んでいる。
湿気。
油。
煙草。
そして腐った海の臭い。
店内からは古いFPSの銃声と歓声が聞こえていた。
「本当にここで会えるのか?」
カイが低く聞く。
「たぶんな」
ロイドは壁へ寄りかかったまま答えた。
「イーグルズの下っ端、たまにここ来る」
「なんで分かるんだよ」
「コインゲームで金洗ってる」
カイが呆れた顔をした時だった。
店の奥から歓声が上がる。
「うおおおお!!」
「今の入っただろ!!」
ブラウン管が並ぶ対戦台。
その中央に、リコがいた。
前のめりになった姿勢。
異常な集中力。
64版。
GC版。
両方の対戦台を行き来している。
ノートにはキャラ相性やステージ名が殴り書きされていた。
「……あいつ学校来てんのか?」
「来てない」
「だろうな」
リコは二人に気づいていない。
あるいは気づいていて無視しているのか。
画面の中ではキャラクターが高速で吹き飛び続けていた。
「64部門とGC部門、両方出るらしい」
ロイドが言う。
「エントリー料で前の任務の報酬ほぼ消えた」
カイは眉をしかめた。
「死にかけて稼いだ金だろ……」
「元々ギャンブル狂だからな」
リコは小さく呟く。
「ワニこそ最強なんだよ……」
「レースでもバトルでもな……」
周囲が笑う。
リコは真顔だった。
カイは呆れたように息を吐く。
「……戦闘能力は頼りになるんだけどな」
「今回は誘わない方がいい」
ロイドが言った。
「なんで」
「騒ぎになる」
それは確かにリコらしかった。
黙って潜入するタイプではない。
むしろ騒ぎの中心へ突っ込んでいく。
しかも今のリコは、完全に大会モードだった。
ブラウン管の光が、彼の横顔を照らしていた。
「行くぞ」
ロイドが奥へ進む。
ゲーセンのさらに裏側。
人気の少ない薄暗いスペース。
壊れた筐体。
煙草の臭い。
その時。
外から爆音が響いた。
バイク。
一台ではない。
何台も。
路地へヘッドライトが差し込む。
革ジャン。
鷲のワッペン。
古い星条旗。
イーグルズだった。
先頭の男がヘルメットを外す。
年齢は三十代くらい。
髭。
疲れた目。
そして妙に古臭い革ジャン。
「……学生じゃねえか」
男はそう言って笑った。
「お前らこんな時間に何してんだ」
カイは少し迷ってから口を開いた。
「仕事探してる」
「外の仕事だ」
男が眉を上げる。
「学生が?」
「金がいる」
「配給だけじゃ足りねえ」
イーグルズの後ろで誰かが笑った。
「まあ、それはそうだ」
男は煙草を咥えたまま二人を見る。
「で?」
「何系だ」
ロイドが口を挟む。
「特殊清掃」
「サルベージ」
「運搬でもいい」
男は少し考えたあと、壁へもたれた。
「……ちょうど人手欲しい話はある」
「ただし楽じゃねえ」
男は指を二本立てる。
「一つ」
「軍警の検問通る」
「二つ」
「湿地抜ける」
カイが黙る。
前回の任務とは違う。
あの時は企業下請け扱いで、最初から通行許可があった。
今回は完全に非公式だった。
「最近、外は面倒なんだよ」
男が続ける。
「軍警の巡回増えた」
「あと戻ってこねえ奴も多い」
湿った夜風が路地を抜ける。
遠くで飛行船のサイレン。
店内では、まだリコ達の歓声が響いていた。




