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第23話 外への地図



 寄宿舎の消灯後。


 カイの部屋には、机いっぱいに紙が広げられていた。


 崩壊前の観光マップ。


 軍警配給区画図。


 水路図。


 古いショッピングモールのパンフレット。


 そして、ロイドがどこからか拾ってきた紙媒体の道路地図。


「……これ全部、同じ場所じゃないか?」


 カイが地図を見比べながら言う。


 ロイドはライトを口に咥えたまま、定規で線を引いていた。


「観覧車の位置と太陽の角度」

「あと港湾ビルの影」


「動画撮影地点はたぶんこの辺」



ロイドが指差した場所。


ネオマイアミ南東。


現在は軍警管理外縁区域。


水没ビル群。


旧世界では金融街として栄えた地区だった。



「遠いな」


「いや、本来はもっと近い」


「崩壊前の道路ならな」


 赤線が途中で途切れている。


 浸水区域。


 崩落高架。


 レイジャー確認区域。


 軍警閉鎖区域。


 どれも通行不能印ばかりだった。


「……学生二人で行ける場所じゃねえ」


 カイが椅子へもたれた。


 ロイドは黙ったまま別の紙を広げる。


 そこには、手書きで線が引かれていた。


「なんだこれ」


「古い排水路図」


「イーグルズが使ってる密輸ルートの噂」


「どこで手に入れた」


「ゲーセン」


 カイが顔をしかめる。


「なんでゲーセンにこんなのあるんだよ」


「世紀末だからだろ」


 ロイドは真顔だった。


「……」


「イーグルズって元々、崩壊前からいたバイカー軍団らしい」


「覚醒剤とか武器の運び屋やってたって話」


「だからこういう裏ルートに詳しい」


「今も密輸やってるしな」


 ロイドは線をなぞる。


「一応、ここを通れば外へ出られる」


 細い線は、都市地下を蛇のように伸びていた。


 途中には注意書き。


『軍警監視』


『水位注意』


『ガス』


『帰還率低』


「帰還率ってなんだよ」


「知らん」


 ロイドは紙を畳む。


「でもこれ、本物っぽい」


 そして少し黙ったあと、低く言った。


「前のお前とリコの任務とは違う」


「今回はマジでヤバい」


 カイが眉をひそめる。


「前のも十分ヤバかっただろ」


「いや、あれは一応“仕事”だった」


 ロイドは紙束をめくった。


「書類上は企業下請けの特殊清掃任務」


「しかも裏でギャングが後ろ盾についてた」


「だから軍警も見逃してた」


 カイは前回のことを思い出す。


 アイスマンが手を回していた。


 積荷検査。


 軍警との短いやり取り。


 あの時は確かに、最初から通行許可が用意されていた。


「でも今回は違う」


 ロイドが言う。


「学生二人が勝手に外へ出る」


「しかも閉鎖区域」


「見つかったら普通に拘束される」


「最悪、徴発か行方不明扱い」


 部屋が静かになる。


 ネオマイアミでは、“外”はそれだけ特別だった。


 市民は配給区画からほとんど出ない。


 外へ出るのは、


 軍警。


 企業。


 ギャング。


 あるいは、帰ってこない奴らだけだった。


 ロイドはスマホを操作する。


 画面には古い社員証。


 男の名は、


 エステバン・ルイス。


 HELIOS ATLANTIC港湾管理部。


「HELIOS……?」


「崩壊前の港湾企業」


「エネルギー輸送とかもやってたらしい」


 ロイドは動画を止める。


 夕暮れ。


 観覧車。


 海。


 ガラス張りの高層オフィス。


「この角度、多分HELIOS本社から撮ってる」


「……まだ残ってんのか?」


「分からん」


「でも高層企業区画は、危険すぎて逆に手つかずって話もある」


 ロイドはスマホを伏せた。




 その瞬間。


 窓の外でサーチライトが空を横切った。


 軍警の飛行船だった。


 巨大な黒い影が、夜のネオマイアミをゆっくりと通過していく。


 カイは無意識に息を止めていた。

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