第21話 未送信
寄宿舎の消灯時間は過ぎていた。
だがネオマイアミで規則を真面目に守る奴は少ない。
特に下層出身者は。
カイとロイドは、毛布を窓へ貼って明かりを隠していた。
机の上には。
割れたスマホ。
工具。
古い充電ケーブル。
そして紙へ書き写されたメモ。
「……やっぱ変だな」
ロイドが呟く。
「何が」
「この動画」
ロイドは画面を止める。
怯えた男。
崩壊前の高層マンション。
最後に振り返る瞬間。
「普通これ、誰かに送るつもりだったはずだ」
「家族とかな」
ロイドは端末ログを開く。
「でも送信履歴が無い」
「保存だけされてる」
「撮った直後に何か起きた?」
「多分」
カイは黙る。
最後のガラスが割れる音を思い出していた。
「……死んだのかもな」
「あるいは逃げた」
ロイドは別ファイルを開く。
大量の破損データ。
メール。
古い写真。
金融ニュース。
企業ロゴ。
政治家との会食。
「こいつかなり上の人間だぞ」
「政府とも繋がってる」
さらに別フォルダ。
崩壊前のマイアミ地図。
海岸開発計画。
港湾資料。
高級住宅区域。
「問題は」
ロイドが椅子へもたれる。
「このシェルターの場所だ」
カイも頷く。
動画だけでは特定できない。
今のマイアミは崩壊前と地形も違う。
浸水区域も増えている。
「軍警に聞くか?」
「却下」
ロイドが即答する。
「勘繰られる」
「前回取引した連中も絶対見返り要求してくる」
「最悪、情報だけ抜かれる」
カイも同意だった。
もし本当に未発見シェルターなら。
配給。
武器。
旧文明機器。
何が残っていてもおかしくない。
自分たちだけで辿り着きたかった。
「崩壊前からマイアミ住んでる奴に聞くか……」
ロイドが呟く。
「古い地図知ってる奴」
「あと金持ちエリア事情に詳しい奴」
その時。
ロイドが画面を拡大する。
「待て」
「これ」
動画の窓ガラスへ、何か映っていた。
ほんの一瞬。
夕焼けの海沿い。
そして遠くに巨大観覧車が映っていた。
「夕方か……」
ロイドが古地図を引き寄せる。
「太陽の位置からすると、西側」
「観覧車が南寄りに見えるなら……」
紙へ線を引く。
「ベイハーバー北側の旧高級区域かもしれない」
さらに画面を拡大する。
窓の奥。
机。
ガラス壁。
「これ住宅じゃないな」
「オフィスっぽい」
その時。
画面端に鍵マーク付きフォルダが表示された。
「ロック?」
「一部だけ暗号化されてる」
ロイドが操作する。
「崩壊前企業端末なら普通にあった」
「開けられそうか」
「総当たりは無理だな」
ロイドは別の写真を開く。
女。
小さな子供。
誕生日ケーキ。
海辺。
「……待て」
ロイドが写真を止める。
ケーキの数字。
『7』
さらに別画像。
誕生日メッセージ。
日付。
「試すだけ試すか」
数字を入力する。
数秒沈黙。
そして。
ロックが解除された。
二人は顔を見合わせる。
暗い画面の奥には。
まだ見たことのないファイル群が並んでいた。




