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第19話 ガス抜き



 ハリケーンが過ぎた後のネオマイアミは、妙に静かだった。


 街は壊れている。


 だが誰も驚かない。


 看板が落ちても。


 浸水しても。


 死体が流れても。


 ネオマイアミでは日常だった。


     *


 軍警学校。


 元は公立校だった建物をそのまま流用している。


 コンクリート。


 鉄格子。


 監視カメラ。


 校庭には土嚢と射撃訓練用バリケード。


 外壁には古い星条旗が色褪せて貼られていた。


 寄宿舎制。


 下層出身の子供を囲い込み、教育と洗脳を同時に行う。


 軍警はそれを“保護”と呼んでいた。


「カイ!」


 教室後方から声が飛ぶ。


「今日ゲーセン来るだろ!?」


「行かねえよ」


「来いよ!」


「俺ゲーム賭博で人生かかってねえし」


 周囲が笑う。


 教師は止めない。


 そもそも軍警学校の教師自体が半分軍人崩れだった。


 授業内容も妙なものが多い。


 識字。


 算数。


 旧文明史。


 銃器安全講習。


 簡易応急処置。


 レイジャー遭遇時対応。


 配給制度。


 そして。


 “市民としての義務”。


 カイは窓の外を見る。


 湿った灰色の空。


 遠くの港。


 さらに向こうには、富裕層区域の高層ビル群が小さく見えていた。


     *


 一方その頃。


「ワニのヨッシーだ」


 リコは真顔だった。


「だからワニじゃねえって」


 ロイドが呆れる。


 ゲームセンター《パラダイス・アーケード》は今日も騒がしかった。


 湿気。


 熱気。


 煙草。


 汗。


 古いブラウン管の光。


 ここは下層では珍しく、まともに電力が来る場所だった。


 壁際には生き残ったアーケード筐体。


 その横には家庭用ゲーム機をモニター接続した席が並ぶ。


 64。


 PS2。


 ドリームキャスト。


 そしてゲームキューブ。


 全部修理跡だらけだった。


 配線は剥き出し。


 コントローラーも色がバラバラ。


 それでも皆、本気だった。


 軍警主催スマブラ大会。


 賞品は大量の配給券。


 保存食。


 高性能電池。


 優勝者は下層では英雄扱いされる。


 だから皆、本気だった。


「ワニこそ最強」


 リコがヨッシーを選択する。


「レースでもバトルでもな」


「リアルでもワニの力を味わったしな」


「お前それ絶対トラウマだろ」


 ロイドはカービィを選ぶ。


 リコは異常な集中力だった。


 借金。


 湿地側。


 来月。


 全部頭にある。


 だから笑っているが、目は死んでいた。


「お前最近、目が賭博中毒者のそれなんだよ」


「勝てば全部解決する」


「負けたら?」


「考えてない」


 画面の中でヨッシーが吹き飛ぶ。


「クソッ!!」


 周囲が笑う。


 誰かが野次を飛ばす。


 誰かが配給券を賭け始める。


 ネオマイアミでは。


 娯楽ですら、生存競争だった。

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