第18話 視える者
暴風雨は少し弱まっていた。
だがネオマイアミの夜は、まだ湿っている。
港湾区画。
波止場近くの古い倉庫。
外壁には旧企業のロゴが薄く残っていた。
照明は最低限。
武装した見張りが二人。
どちらも妙に無表情だった。
ルシアは煙草を踏み消す。
「通す」
見張りが短く言う。
鉄扉が開く。
*
部屋は静かだった。
古い木製テーブル。
発電機の低い唸り。
酒の匂い。
窓の外にはネオンと暴風。
ソファに座るアイスマンは顔を暗がりへ隠していた。
「直に伝えたかった」
ルシアが言う。
「例のガキか」
「ああ」
短い沈黙。
ルシアは続ける。
「今度のはレアだろ」
「どの勢力も欲しがる」
相手は何も言わない。
「セドを視認してる」
「感知じゃない」
「見えてる」
そこで初めて、暗がりの人物が少しだけ顔を上げた。
「確実か」
「私が確認した」
ルシアは椅子へ腰掛ける。
「これで」
「私たちがこの十年で接触、遭遇したセド能力者は十一人」
指を折る。
「六人は身体強化型」
「企業の薬でも再現可能なレベル」
「残り五人が特殊型」
ルシアは自分を指差す。
「私」
暗がりを見る。
「あなた」
少し間を置く。
「ドラウナーのボス」
「軍警に一人」
「そして今回の小僧」
発電機が低く唸る。
遠くで雷鳴。
相手は静かにグラスを回していた。
「身体強化型は珍しくない」
ルシアが続ける。
「最近じゃ企業私兵にもいる」
「レイジャー脳由来の抽出剤で半分量産されてる」
「だが特殊型は違う」
「代替が効かない」
沈黙。
「だから企業は欲しがる」
「軍警も」
「「星」の連中もな」
ルシアは煙草へ火をつける。
「特に今回は若い」
「制御前」
「抱え込めればデカい」
暗がりの人物が低く言う。
「お前はどう見る」
「怯えてる」
ルシアは即答した。
「でも壊れてない」
「まだ普通のガキだ」
煙が揺れる。
「……だから厄介だな」
ルシアは少し笑った。
「私はフリーの情報屋を演じてるが」
「本業は別だ」
その目だけが妙に冷たい。
「セド能力者は、近づくと分かる」
「匂いみたいなもんだ」
「だから私は見つける側」
暗がりの人物がゆっくり立ち上がる。
顔はまだ見えない。
「企業側は?」
「まだ気づいてないと思う」
「だが時間の問題だ」
ルシアは煙を吐く。
「連中、“視える奴”は絶対欲しがる」
窓の外。
ネオンの滲んだネオマイアミが広がっている。
湿地。
港。
暴風。
崩壊都市。
そのどこかで。
カイはまだ、自分がどれだけ危険な存在か知らなかった。




