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第17話 遺品


 地下リングは熱狂していた。


 怒号。


 汗。


 酒。


 血。


 発電機ライトだけで照らされたリングの上で、二人の男が殴り合っている。


「立て!!」


「そこで右だ!!」


「殺せ!!」


「殺すな!!」


 観客は完全に酔っていた。


 そしてリコも。


「よし!!次だ!!」


「お前まだやるのか」


 ロイドが呆れる。


 歪んだメガネを押し上げながら煙草へ火をつける。


「取り返せる流れ来てる」


「ギャンブルでその台詞言う奴は終わり」


「人生全部そうだろ」


 次の試合。


 リコが賭けた側は三十秒で沈んだ。


「……」


「ほらな」


 さらに次。


 また負け。


 さらに次。


 また。


「……終わった」


 リコが虚ろな目で呟く。


「いくら消えた」


 カイが聞く。


 リコはしばらく黙っていた。


「……ほぼ全部」


「バカだろ」


「いや実は」


 リコが目を逸らす。


「借りてた」


 空気が少し変わる。


「誰に」


「湿地側の連中」


「終わってる」


 リコは乾いた笑いを漏らす。


「前回みたいな高報酬の任務なんかそう無い」


「……来月頭までに街を出て逃げるか」


「スマブラ大会で勝つしかなくなった」


 ロイドが頭を抱える。


「お前人生設計が終末世界すぎる」


 リングから歓声。


 誰かが倒れた。


 誰かが吐いた。


 誰かが笑った。


 嵐の夜は終わらない。


     *


 その時。


 入口側が騒がしくなった。


 酒場の空気が変わる。


 ざわめき。


 低い声。


 誰かが十字を切る。


「……おい」


 アーリックが呟く。


 カイたちは入口側へ向かう。


 排水路近く。


 湿った風。


 そこに人だかりができていた。


 象印の上着。


 揺れる足。


 首吊り。


 一瞬、誰か分からなかった。


 だが。


「……マルコ」


 カイの喉が乾く。


 数時間前まで笑っていた男が、そこにぶら下がっていた。


 顔には妙な笑みが残っている。


 軍警崩れの男が低く言う。


「フェイダー発症だな」


 地下水路で浴びた高濃度セド。


 遅発型。


 人格変質。


 感情鈍化。


 そして重度になると、自傷率が急激に上がる。


 誰も何も言わなかった。


 リコですら。


 嵐の音だけが響いている。


     *


 しばらくして。


 酒場へ戻ったあと。


 カイは思い出したようにポケットを見る。


 ガムテープだらけの包み。


 マルコが渡したものだった。


「……開けるか」


 テーブルへ置く。


 リコ。


 ロイド。


 アーリック。


 皆、妙に静かだった。


 ガムテープを剥がす。


 中から出てきたのは。


「……PSP?」


 傷だらけだった。


 だが電源ランプは生きている。


「おいマジか」


 ロイドが目を見開く。


「こんなの下層じゃ高級品だぞ」


 さらに。


 半分割れたスマホ。


 泥と血で汚れていた。


「前の任務の時のか」


 カイが呟く。


 マルコは命懸けで旧文明品を漁っていた。


 その中で。


 必死に手に入れた物を。


 他人へ渡した。


 カイはしばらく何も言えなかった。


 外では、まだハリケーンがネオマイアミを揺らしていた。

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