第14話 ハリケーンパーティ
ネオマイアミでは、ハリケーンの日にパーティをやる。
崩壊前から続く文化だった。
どうせ外へ出られない。
だったら飲む。
歌う。
騒ぐ。
そして嵐が過ぎるのを待つ。
崩壊後、その文化はさらに強くなった。
ハリケーン中は軍警も動きが鈍る。
配給も止まる。
追跡も減る。
だから下層の人間たちは言う。
――死ぬなら飲んでから。
*
「マジで参加できるとは思わなかった」
カイが言う。
簡易シャワーを浴びたあと、久しぶりにまともな椅子へ座っていた。
リコが缶ビールを投げる。
「生き残り記念だ」
「まだ死にそうだったけどな」
「それは毎日だろ」
地下水路から帰還後、一行は簡単な聴聞だけ受けた。
想像より解放は早かった。
ハンク死亡。
ドラウナー襲撃。
巨大レイジャー鰐。
証言は概ね一致していた。
マルコはまだ隔離観察中だ。
セド暴露量が多すぎた。
「しばらく回収任務は休みたい……」
カイが本気で言う。
「賛成」
リコも即答した。
*
酒場は半分停電していた。
発電機の唸り。
湿気。
煙草。
アルコール。
人の熱気。
入口では濡れた連中が笑っている。
レゲトンが爆音で流れていた。
「いらっしゃい生存者ども!」
店主のミレーナが両手を広げる。
三十代くらい。
黒髪。
派手なピアス。
妙に明るい女だった。
「今日は二階浸水してないから当たりの日ね!」
「基準終わってるだろ」
「ネオマイアミだぞ?」
笑い。
ミレーナは手際よく酒を注ぐ。
客の肩を叩き。
大声で笑い。
喧嘩しかけた酔っ払いを視線だけで黙らせる。
この辺りじゃ顔役に近かった。
「おお、生きてたか!」
派手なジャケットの男が近づいてくる。
長髪。
細身。
酒臭い。
「アーリック」
「地下水路行ったんだって?」
「まあ」
「バカだろ」
一応、俳優。
崩壊後でも演劇文化は細々と残っている。
「今度また劇やるから来いよ」
「客いるのか?」
「三人いた」
「終わってんな」
「でも拍手は本物だったぜ」
歪んだメガネをかけたニキビ顔の青年ロイドが後ろから割り込んでくる。
「お前ら聞いたか?」
「軍警の大会」
「またやるのか」
「マリカとスマブラ」
軍警主催大会。
下層の若者向けに定期開催されている。
賞品は配給券。
保存食。
発電池。
時には浄水フィルター。
名目は娯楽支援。
実際はガス抜きだった。
暴動防止。
ギャング抗争抑制。
若者へ“熱中先”を与えるため。
「俺今回マジで優勝狙ってる」
リコが真顔で言う。
「まだ言ってんのか」
「ヨッシーだ」
「またそれか」
「あのワニこそレース最強」
「ヨッシーはワニじゃねえだろ」
カイが即答する。
「いやワニだ」
「どう考えても恐竜だろ」
「ネオマイアミじゃ同じだ」
各々が飲み、笑う。
隅では老人たちが古い野球カードを賭けてポーカーしていた。
子供連れの女が保存食スープをすすっている。
濡れた軍警崩れが寝ている。
誰かが壊れかけのスピーカーを叩いた。
また音楽が戻る。
ネオマイアミは終わった世界だった。
でも。
終わったなりに、人は生きていた。




