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第13話 認知汚染



 数時間後。


 ハリケーンはネオマイアミを叩いていた。


 暴風。


 横殴りの雨。


 古い建物全体が低く軋んでいる。


 港湾区近く。


 窓を板で塞いだバーの一室。


 発電機の唸りだけが響いていた。


 テーブルの上には、濡れたスマートフォンが並んでいる。


 旧文明の遺物。


 今では身分確認にも使われていた。


「……まただ」


 男が低く呟く。


 ベンソン。


 アイスマン副官。


 数少ない“直接会える側”の人間だった。


 スマホ画面にはバラクーダの顔写真。


 だが。


 今見ると別人だった。


 骨格。


 目。


 頬。


 全部違う。


「以前もあった」


 部下の一人が言う。


「ドラウナー潜入事件」


「だから今回は顔写真を撮って確認してた」


「イーグルズ側にも見せた」


「本物のバラクーダだって、全員言ってた」


 沈黙。


 暴風が建物を揺らす。


「……なのに」


 ベンソンはスマホを見る。


「おそらく、奴が死んだ瞬間からだ」


「急に違って見えた」


「魔法が解けたみたいにな」


 全員、同じ感覚だった。


 偽バラクーダが死んだ瞬間。


 写真の違和感。


 歩き方。


 声。


 全部、“別人”として理解できた。


「能力者か」


 誰かが呟く。


「認知を歪めるセド能力」


「ありえる」


「軍警報告にも類似例はある」


「ドラウナー側にいるってのか?」


 空気が重くなる。


 かなり危険だった。


 監視。


 潜入。


 暗殺。


 全部成立する。


 都市そのものが壊れる。


「しかもハンクが死んだ」


 別の男が低く言う。


 アイスマン直属。


 古株。


 湿地任務経験も長い。


「惜しい男だった」


「物資も期待以下だ」


 端末を見ながら別の男が言う。


「発電機一台破損」


「医薬品流失」


「旧文明資産も想定より少ない」


「割に合わん」


「巨大レイジャー鰐複数確認」


「ドラウナー襲撃」


「ハンク暴走」


「連中、よく帰って来れたな」


 ベンソンが煙草へ火をつける。


「……車両整備に強いイーグルズを入れたのが仇になったか」


 湿地移動には必要だった。


 地下水路周辺の悪路。


 回収物資。


 発電機。


 輸送にはイーグルズの技術が要る。


 だからバラクーダを同行させた。


 結果。


 ドラウナーに潜り込まれた。


 雷鳴。


 発電機の唸り。


 窓を叩く暴風。


 ベンソンはしばらく黙っていた。


 そしてスマホを伏せる。


「……では」


 全員が顔を上げる。


「ボスに報告する」


 部屋の空気が少しだけ張り詰めた。


 アイスマン。


 その名を軽々しく口にする者はいない。


 直接会えるのは、ベンソンだけだった。


 外ではハリケーンが、ネオマイアミを揺らし続けていた。

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