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第12話 帰路



 ドラウナーのバギーは、雨の湿地を荒々しく走っていた。


 サスペンションが軋む。


 泥水が跳ねる。


 車体側面には、黒い波から突き出た白い手のマーク。


 見るだけで気分が悪くなる。


 マルコが助手席で黙っていた。


 珍しい。


 リコが横目で見る。


「……大丈夫か?」


「分からん」


 マルコは自分の腕を見る。


 地下水路でかなりセドを浴びた。


 ハンクも同じだった。


 だが。


 ハンクは発症した。


 完全なレイジャー化。


 理性崩壊。


「頭痛は?」


「ある」


「怒りとか」


「元から短気だ」



 少しだけ笑いが起きる。


 だが不安は消えない。


 レイジャー化の発症時間には個人差がある。


 ただ。


 軍警データでは、完全レイジャー化は遅くても三十分以内。


 今のマルコは違った。


 少なくとも、まだ。


「ワンチャン適合者かもな」


 リコが言う。


「セド適合型」


「嫌すぎる響きだろ」


 マルコが苦笑する。


 カイは黙っていた。


「……分からない」


 小さく言う。


「俺にも」


 セドが見えても、全部分かるわけじゃない。


 ルシアが煙草へ火をつける。


「軍警で検査受けるって手もある」


 空気が止まる。


「検査設備は軍警しか持ってない」


「却下」


 マルコが即答した。


「絶対ロクなことにならん」


「だろうな」


 リコも同意する。


 軍警は保護組織じゃない。


 能力者を“管理”する側だ。


 しばらく沈黙。


 雨音。


 エンジン音。


 遠くの雷。


 そして。


 ハンクがいない静けさ。


「……まずいよな」


 リコがぽつりと言う。


「何が」


「ハンクだよ」


 空気が少し重くなる。


「アイスマン直属だったんだろ」


「らしいな」


「しかも物資ほぼ失った」


 マルコが前を見る。


「分け前増やすためにハンク殺したとか思われねえ?」


 誰もすぐ答えなかった。


 ネオマイアミでは普通にありえる。


 仲間殺し。


 横取り。


 口封じ。


 珍しくもない。


「考えすぎ」


 ルシアが煙を吐く。


「私が話をつける」


 リコが振り返る。


「あんたフリーだろ?」


「信用されるのか?」


 ルシアは少し笑う。


「付き合いは長い」


 それ以上は言わなかった。


 リコは少しだけ眉をひそめる。


 何か隠している。


 だが今は突っ込まない。


「ただ」


 ルシアの声が低くなる。


「向こうから聴聞はある」


「だろうな」


「口裏は合わせるぞ」


 全員が静かになる。


 ルシアが確認する。


「ハンクはセド暴露でレイジャー化」


「敵と交戦中に暴走」


「バラクーダはドラウナーと通じていた」


「地下水路に巨大ワニ複数」


 マルコが苦笑する。


「最後だけ盛ってるみたいだな」


「実際いた」


「それはそう」


 バギーが大きく揺れる。


 前方。


 都市部の灯りが遠くに見え始めていた。


 ネオマイアミ。


 雨のネオン。


 湿気。


 ぼやけた高架道路。


「……このまま入るのか?」


 リコが聞く。


 全員が車体を見る。


 ドラウナーのマーク。


 改造車。


 機銃。


 血痕。


 どう見ても最悪だった。


「門兵に見つかった瞬間、蜂の巣だな」


 ルシアが言う。


「白旗とか?」


 マルコ。


「意味ない」


 ルシアは即答する。


「昔ドラウナーが白旗掲げながら略奪してた」


「終わってんなアイツら」


「だから今は誰も信用しない」


 再び沈黙。


 そしてリコが前を見る。


「……どっかで車捨てるか」


 誰も反対しなかった。

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