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第11話 地下水路



 ドラウナー。


 ネオマイアミでも最悪の集団だ。


 ギャングですら嫌う。


 下層のギャングには、一応ルールがある。


 縄張り。


 取引。


 炊き出し。


 仲間。


 最低限の倫理。


 象印みたいな連中はその極端な例だった。


 だがドラウナーには、それがない。


 仲間殺し。


 略奪失敗。


 裏切り。


 セド中毒。


 他組織を追放された人間たちの吹き溜まり。


 湿地。


 地下水路。


 沈んだ高速道路。


 誰も住みたがらない場所へ流れ着いた結果、生まれた集団だった。


 だから。


 必要なら奪う。


 必要なくても殺す。


 改造車が泥水を跳ね上げながら突っ込んでくる。


 機銃。


 ライト。


 黒い波から突き出た白い手のマーク。


「遮蔽!!」


 ハンクが怒鳴る。


 弾丸がコンテナを砕く。


 鉄片が飛び散る。


 リコが応射。


 だが相手は多い。


 しかも湿地戦に慣れている。


「押される!」


 マルコが叫ぶ。


 ドラウナーの一人がコンテナ上へ飛び乗った。


 顔半分が焼け爛れている。


 笑いながら撃ってくる。


「水路だ!!」


 ハンクが即断する。


「地下へ降りる!」


「正気か!?」


「地上じゃ囲まれる!」


 一行はコンテナ地帯奥の排水口へ飛び込む。


 腐臭。


 湿気。


 暗闇。


 地下水路は幾重にも枝分かれしていた。


 崩壊前の排水システム。


 今は湿地そのものと繋がっている。


 後方でドラウナーの叫び声。


 追ってきている。


「左だ!!」


 ハンクが走る。


 だが。


「待て!!」


 カイが叫ぶ。


 全員が一瞬止まる。


「そっちはダメだ!」


「またそれか!」


 ハンクが怒鳴る。


「セドが濃すぎる!」


「見えもしねえもの信じろってのか!?」


 マルコも叫ぶ。


 後方で発砲音。


 ドラウナー接近。


 時間がない。


「進むぞ!!」


 ハンクが強引に水路へ入る。


 黒い水。


 壁にこびりついた黒い澱。


 頭痛。


 耳鳴り。


 怒鳴り声。


 嫌な感情が流れ込んでくる。


 カイは吐き気を堪える。


 濃すぎる。


 ここは危険だ。


 数分後。


 最初に異変が出たのはハンクだった。


「……チッ」


 呼吸が荒い。


 目が充血している。


 歩く速度が異様に速い。


「ハンク?」


 リコが声をかける。


「うるせえ」


 声が低い。


 次の瞬間。


 ハンクが壁を殴った。


 コンクリートが砕ける。


 全員が止まる。


「おい」


 ルシアの顔色が変わる。


「セド暴走だ」


 ハンクがこちらを見る。


 瞳孔が開いている。


 理性が崩れ始めていた。


「……全部」

 

 ハンクが呟く。


「全部クソだ」


 後方からドラウナー接近。


 ライト。


 怒鳴り声。


 そして。


 ハンクが振り返った。


 レイジャー化。


 完全暴走。


「逃げろ!!」


 次の瞬間。


 ハンクがドラウナーへ突っ込んだ。


 銃撃。


 絶叫。


 地下水路に血飛沫が散る。


「なんだコイツ!?」


「撃て撃て撃——」


 ハンクは止まらない。


 壁へ叩きつけ。


 首を折り。


 歯を剥き出しにして暴れる。


 ドラウナー側も混乱していた。


 その時だった。


 地下水路奥から。


 低い水音。


 巨大な影。


 黄色い目。


「……嘘だろ」


 マルコが呟く。


 もう一体。


 巨大レイジャー鰐。


 地下水路の狭さなど関係ない。


 怪物は一直線に突っ込んできた。


 ドラウナー。


 レイジャーハンク。


 巨大鰐。


 地下水路が地獄になる。


「今だ!!」


 ルシアが叫ぶ。


 一行は別ルートへ走る。


 背後では。


 銃声。


 肉が裂ける音。


 咆哮。


 絶叫。


 全部混ざっていた。


     *


 数時間後。


 雨の中。


 一行は泥だらけで地上へ出る。


 生き残ったのは数人だけだった。


 物資もほとんど失った。


 だが。


 放棄されたドラウナーのバギーが残っていた。


 黒い波から突き出た白い手のマーク。


 エンジンはまだ生きている。


 マルコが運転席へ飛び乗る。


「……帰れる」


 誰もしばらく喋らなかった。


 遠くでハリケーンの雷鳴だけが響いていた。

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