第10話 ドラウナー
巨大レイジャー鰐が沈黙しても、誰もしばらく動かなかった。
雨音。
泥水。
硝煙。
崩れたコンテナ。
湿地そのものが呼吸しているみたいだった。
「……死んだか?」
リコが恐る恐る聞く。
ハンクがワニの頭部を蹴る。
反応なし。
「たぶんな」
「“たぶん”で済ませるサイズじゃねえだろ」
崩れたコンテナ地帯を見渡す。
かなりやられている。
水没。
荷崩れ。
流失。
せっかく選別した物資も、かなり沈んでいた。
ハンクが舌打ちする。
「積載量、三分の一まで落ちた」
「マジかよ」
「ワニが全部ぶっ壊した」
ルシアが周囲を警戒する。
「それでも輸送車に積み切れないな」
「電池優先」
ハンクが即答する。
「薬、発電機、保存食、その次が旧文明資産だ」
「ゲーム機は?」
マルコが聞く。
「小さい物だけ持て」
マルコは少し悩み、PSPケースをバッグへ押し込んだ。
ハンクは軍用端末を確認する。
風速上昇。
ハリケーン接近。
時間がない。
その時だった。
バラクーダが後ろを向く。
「……来る」
全員が止まる。
「何が?」
次の瞬間。
発砲音。
バラクーダだった。
信号弾が雨空を赤く染める。
「おい!? 何やって——」
直後。
遠くから爆音。
改造車両が水しぶきを上げながら突っ込んでくる。
鉄板装甲。
溶接されたバンパー。
荷台の機銃。
車体には悪趣味なペイント。
黒い波から突き出た白い手のマーク。
「ドラウナーだ!!」
ハンクが叫ぶ。
発砲。
火花。
コンテナへ弾丸が叩き込まれる。
「バラクーダてめえ!!」
リコが振り返る。
だが。
バラクーダはもう銃口をこちらへ向けていた。
「悪く思うな」
声が変わっていた。
冷たい。
「本物のバラクーダは、もう湿地の底だ」
空気が止まる。
「……何?」
マルコが呟く。
「イーグルズのバラクーダは数週間前に死んだ」
男は笑う。
「ドラウナーが殺した」
ドラウナー。
ネオマイアミでも最悪の集団だ。
強盗。
略奪。
誘拐。
そして殺人。
それが日常。
縄張りも思想もない。
必要なら物資を奪い、必要なくても殺す。
湿地、水路、沈んだ高速道路。
崩壊したマイアミの地形を最も理解している連中だった。
「俺は“代役”だ」
再び発砲。
弾丸がコンテナを砕く。
改造車がさらに接近する。
五人。
武装済み。
しかも全員、湿地戦仕様だった。
ハンクが怒鳴る。
「遮蔽!! 荷物捨てろ!!」
コンテナ地帯に銃声が響き渡った。




