第32話 見えてはいけないものが見える人
「――――――――はっ」
また悪い夢を見て飛び起きた。呼吸を整え、時計に目を向けると深夜一時だ。昨日もだったが、花之木の事件があってから安心して眠りにつけないような気がする。そんな中途覚醒した僕はトイレに行きたくて仕方なかった。
大人は嘘つきばっかりで、この世界はそんな大人の嘘で塗り固められて形成されている。アイザック・ニュートンは木からりんごが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したって話は嘘だし、マリー・アントワネットがパンがなければお菓子を食べればいいじゃないって言ったのだって嘘だ。いつの時代も強大な組織の嘘によって、ある人間の悪事は綺麗事で片づけられ、またある場合は誰かが悪者にされる。
――――――嘘つき嘘つき大嘘つき!
僕はあのヒステリック更年期ババアや形だけの慰めをするレイにだってイラつき始めて頭の皮をガリガリと搔きむしった。
――――――――許せない!許せない!絶対に許してやるもんか!
透明な包丁を右手に持って寝ているソファの中の綿をくり抜くようにドンドンと何度も叩く。そして、怒りを抱きしめソファから落ちるように足を冷たい床に落とした。
トレイシーさんの家の廊下は長いのに暗い。廊下の両端には埃被った本がぎっしりと詰められた棚がズラーと並びまるで幽霊屋敷だ。
トイレはどこかと探して、しばらく壁を伝いながら歩くと明かりが漏れている部屋を発見した。トイレの場所を聞こうと思い「トレイシーさん」と声を掛けると、彼女は咄嗟に左腕を隠した。寝ぼけている僕にもあの左手の甲に何があったのかはっきりとではないが見えた。
それは、何かの文字のような入れ墨、
いや、遠くからでぼんやりとしか見えないが入れ墨というより焼き付けられたみたいなものだった。
文字。
よく見えないが1つ、たった1つだけの文字だ。
違和感を覚えつつも彼女に声をかけた。
「あのぅ…トイレ…」
「あ、トイレね。この家水道を止めてあるからトイレっていったら近くの24時間営業しているスーパーのトイレぐらいしかないの。この家を右手に進んだところにあるんだけど、そこでもいい?ごめんなさいね」
※ ※
翌朝、トレイシーさんは帰る前にどうしても僕に寄ってもらいたい場所があると、散歩に誘った。
吹いてくる風が気持ちいい。遠い街へ行くと安心する。何でって質問されても答えは簡単だ。
だって、誰も僕の存在を知らないから。道端ですれ違う人達の顔は見たことないものばかりで、安堵する。
僕をいないもの扱いして通り過ぎてくれて心の底からありがとうと、そう思う。前から通り過ぎるサラリーマンのおじさんも、後ろからスタスタと速歩きで僕を抜かすOLも、自転車で横切る子供達も誰も僕を知らない。
だから「ミナト!」って、僕を呼ぶ声がないからビクビクしないで済むのがこの上なく嬉しかった。
そんな僕とトレイシーさんは雑談なんかもせず、しばらく市街地を歩いた。
「あれ」
彼女は草木が生えた丘の上にあるとても大きい西洋風の城のような建物を指さした。てっぺんにはドーム状になっていて旗がたっている。バロック様式の結晶とでも呼ぶべき建造物だろうか。
僕らはその建物へ向かった。敷地内の大きい広場の中には崩れかけたレンガの塊、見上げると首が痛くなるほど大きい石の門。それら全ての要素が僕を包み込んで中性ヨーロッパにタイムスリップしたような気分にさせてくれる。
「ここがワタシ行きつけの博物館。図書館もあるし、よく困ったことがあったりよく来るの。ここ、古代ハンガリー帝国の展示はもちろんなんだけど、アンドロイド関連とか空白の期間の展示とかも多くてね。昔のお城をそのまま博物館にしているから歴史を感じられるし、ワタシが知っている中で最高の博物館」
入館すると中には一眼レフを首からぶら下げた鼻の高い観光客ばかりで、トレイシーさんは僕が何も聞いていないのに展示物の解説を楽しそうに話し始めた。
「これよ。仏像。京都の」
「京都って、僕が住んでいる258ブロックの隣りにある259ブロックの?」
花之木は殺されていなければ今頃259ブロックの空を見上げていたんだろうか。そう思いを馳せながらトレイシーさんが指差す木製の仏像を見つめる。所々黒ずんだ所にこの仏像が過ごした年月、この優しく穏やか顔からは古代人の巧みな技術を感じた。水晶や宝石のような華美で綺麗なものではないが、一種の神秘性を含んでいると思った。
「そう。259ブロックだと保存環境が整備されていなくて危険だからこの博物館が買い取ったみたいなの。あそこは支配している一ノ宮家が好き放題やって荒れているから、まともな博物館や美術館すらないみたいで。生活水準も低いから高価なものと分かれば蛮族が盗んでしまうかもしれないし…。まあ、あそこはたまたま陸と繋がっている絶海の孤島みたいなものだから内情がどうなっているのかは詳しい部分までは分からないけどね」
――――好きなこととなるとベラベラとずっと喋り倒しているアンドロイドだ。
冷淡というか淡白なトレイシーさんにも、胸高鳴らせるものはあるんだと、僕はそっちばかりに気が取られた。
「次はこれ。こっちきて」
ハンガリー帝国や王家の展示物を一通り見終わったあと、トレイシーさんは満面の笑みで『空白の期間コーナー』に案内した。クールな彼女がぴょんぴょんと跳ね上がって、まるで子どもが動物館や水族館に来て興奮しているようだった。「あれ見て、これ見て」って、僕は母親じゃねえんだ。
僕にはここが退屈なカフェテリアにしか見えないんだけどな。
「ミナト君。空白の期間って知ってる?」
「ちょこちょこ聞いたことは…」
「そう。昔はね、258ブロックに住んでいる人も、259ブロックに住んでいる人も同一民族だった。総称して”日本人”と呼ばれていた。でも、第二次世界大戦で日本は負けた。それから、東日本民主主義共和国と西日本帝国という傀儡政権が樹立され、一つの民族は真っ二つに分割された。ここまではしっかりとした資料が残っている。だけど、1960年辺りから和泉牛斗が世界を統一する2011年まで、資料や映像も建物も芸術も全部。アンドロイドを除いて何者かによって意図的に消されている。私達アンドロイドだって、当時の記憶を消されている。だから、何が起こっていたか分からないの」
僕はごくんと唾を飲んだ。
「だけど、1つだけ確かなことがある…」
「アンドロイドを造れるほどに技術が発達していたってことか?」
「そう。お見事」
僕の答えに彼女は微笑んだ。「結構わかっているじゃない」と、そんな教師のような瞳をしていた。
「20年ほど前に、ガーデン調査団っていう世界中の選ばれた歴史学者達がここへやってきて発掘調査をしていたの。そこでここに展示されている空白の期間時代のオーパーツが発見されたの。…不幸にも調査中に全員事故で亡くなってしまったけれどね。ああ。ほら、これがガーデン調査団の写真」
トレイシーさんは後ろにある壁に立てかけられたガーデン調査団の概要パネルを指した。発掘現場前での古い集合写真を拡大化したものだ。
探検服を着た13人の男女が笑って希望に満ち溢れた表情をしてこちらを向いている。謎に包まれた人類の歴史を解明することに命と熱を注ぐ。それだけのことを生涯かけてしていたかっただろうに。こんな人達が事故で死んでしまうなんて人生何が起こるかわからないものだ。
――――死んで良かったじゃないか。おかげで悲劇の隊員たちになれて。命渡すだけで伝説になれるんだぜ。安いもんだ。
しまった。また、心の奥底の負の感情が。まあ、言葉に出していないだけまだましか。この感情をあとどれくらいまで秘めてられるかわからないけど。
「特に、この真ん中の女の人。調査団のリーダーの城崎アズサ。若いのに一番頭が良かったの。論文も沢山出していたしね。たしか、ミナト君と同じ258ブロック出身だったと思う…」
「ふうん」
僕と話したことも声を聞いたこともないその女は天才で良かったね。はいはい、じゃあこのしょうもない話は終わり。なんだか嫌味を言われているように感じて腹が立つから次行きましょうって、僕はパンパンと手を叩きたくなってきた。
「まあ、大人しそうに見えて男関係激しかったみたいだけどね。彼女。挙句の果てにバカな論文出して学会から追放されたし」
んなこと、どうだっていいよ。でも、偉人にも超人にもどうしよもない部分があると思うと謎の優越感に浸れた。
そんな時、ジリジリ、ジリジリと少し耳鳴りのようなものが聞こえてきた。遥か彼方の遠くから聞こえてくるその音で耳が痒くなってゆく。僕は耳を抑えた。
そのままトレイシーさんと共に奥へ向かうと、下部が3分の1ほど破けた紙がガラスケースの中に厳重に展示してあった。周りには1000年前の欠けていたり錆びていたり小さいオーパーツばかりだったからこそ、こんな紙切れ1枚が特別に感じて妙に惹かれた。
「これって何ですか?」
「ああ、それ?ガーデン調査団が発見した”人道から外れる実験を禁ずる23ヶ条”の一部。空白の期間中は色々な実験をやっていたみたいだから人道に反するものも沢山やっていたんでしょうね。だから、禁止したの。今も残っているのは見ての通り序文の一部だけだけど」
「何て書かれているんですか?」
「人の道を大きく外れる以下の実験を完全に禁じる。クローン作成。ゲノム編集。脳髄機能をアンドロイドに移植。それと…強制人工業使い」
「人工…業使い?それって人工的に業使いを作れるってことかよ!へえ、やっぱ、空白の期間はロマンがありますね。アンドロイドだって造っちゃうし!」
「ワタシはこれほど愚行な実験ないと思う。バカバカしいわね。禁止されて当たり前」
「何で、ダメなんだよ…。いいじゃん。業使いが増えるから悪用するやつもいるってことか?まあ、それは警察次第じゃないの?はーあ、それにしても何で消しちゃったんだろ。こんなに便利なのに」
すると、トレイシーさんの声はワントーン低くなり表情も曇った。
「人工業使いさせられるとね。――――見えてはいけないものが見えてしまうの」
「見えてはいけないものって、何なんだよ?」
「さあ、怖いものじゃない?」
僕が丁寧に訊き返してあげたのに、彼女はどこかふふんと他人事のように笑っているような気がして、なんだか腹が立った。
「―――怖いものって何なんだよ…!」
僕が恐怖を殺すために声を荒げると、突然金切り音が頭の中で響鳴した。ユウを庇ったあの日と同じだ。意識は朦朧とし始め両手で頭を毟るように掴んだ。痒い痒い、痒い。自分が何人にも分裂したような感覚が襲いかかり視界の周りに靄がかかった。
僕は必要以上の情報が入ってくるともっと気分を害しそうだったので意識的に目を瞑った。そして、真っ暗な世界の中で何かを探るように右腕を伸ばした。
目を開けるとそこは別世界だった。どこだこの街は。赤い炎が街を包み人々の悲鳴が聞こえ、厚い雲は赤くなっていた。
ウィーーーーンウィーーーーーーンと、避難訓練で流れてくるサイレンなんかとは比べ物にならないほど僕の心を脅かす音が鳴り響いていた。遠くにとても高い西洋風の時計塔があったが、周りは近未来的な建物ばかりで八王子や東京では見たことがなかった。
一歩踏み出すと泥とはまた違うグチャッとした感覚があったので足元を見た。すると、ボロ雑巾のような死体がたくさん転がっていた。
「うわあああああっ!」
あまりの凄惨な光景に僕は悲鳴を上げた。
だが、その死体を市民達は絨毯のように踏み潰して逃げてゆく。そんな罰当たりな行為に「ちょっと酷いじゃないか」と待ったをかける人は誰もいない。
しばらく死体だらけの道をグジョグジョと音を立てながら歩いていると、開けた道路に出た。そこで、夫婦関係と思われる男と女が揉めていた。
「早く逃げるんだよ!」
「でも、家のお金がっ!」
「そんなもの、後でどうにだってなるだろ!ちんたらしてたらアンドロイドに殺されちまうぞ!」
「だったらどうやって生きていけばいいのよ!」
すると2人にどこかから飛んできた銃弾が当たって死んでしまった。僕は「あ、死んだ」と思った。
空をイワシのような群れになって飛ぶ飛行機は普段見るような旅客機ではない。きっと用途が違う。それは殺すために改良されたようなものだった。
すると、黒い大きな卵のようなものが沢山その飛行機から出てきた。そしてこの赤い空を覆うように落ちてくる。悪魔の卵だ。ああ、終焉の日ってこういう感じなんだな。
そして光焔がゆらめいた。ゆらゆらと。ゆらゆら。ゆらゆらあって。
『―――――――お前の力を開放しろ!』
「誰だぁーーーー!毎回毎回っ、うるさいんだよっ!出てけ!出てけ!出てけーーー!僕はっ!僕はぁーーーーーーー!」
僕は鼓膜が破けそうな勢いで耳に指を突っ込んだ。そして、瞳孔をかっぴらいて展示品保護用のガラスにへばりつき発狂した。
『――――――――違う!君を追い詰めたいわけじゃない!本当にすまないと思っている!でも、早くしないと君達は死んでしまうんだ!だからっ!』
また知らない男の声が頭の奥に響いてくる。最近悪夢を見ることが多いのも、変な声が僕に「死ね」と言ってくるのも、花之木が死んだのも、僕の人生が楽しくないのも全部全部こいつのせいだ。僕が弱いのもこいつが悪いんだと、誰だかも知らないこのゴーストに責任転換してやった。
「ミナト君!ちょっと、どうしたの?大丈夫!?」
ざわついてた僕の頭の中にトレイシーさんの真っ直ぐな声が反響した。そしてやっと元居た博物館に戻ってきていることに気がついた。
周りにいた入館客の僕を異常者だと判断する冷たい視線達が猛烈に痛かった。
「ハァ、ハァハァ…。…あ、あぁ、大丈夫ですよ」
僕は今まで取り乱していた姿を隠すかのようにそう言ったが、こんな青白く冷めきった顔で誤魔化してもトレイシーさんは信じなかっただろう。彼女は驚いた表情でこう問いかける。
「ミナト君、今の…何?」
「たまにあるんですよ。低血圧…でしょうかね。あはは」
自分でも何が何だか分からなくて恐ろしくなったが、無理矢理笑顔を繕って話を逸した。その場しのぎだが、自分で自分を騙すのが一番安心できる。
確実に僕は狂ってきている。その事実が恐ろしかった。教室の端っこで笑っていたあの僕がどんどんと遠い遠い向こう側へ離れている。あれほど非日常を求めていたのは僕なのに。隣の芝生は青く見えるというように、檻に閉じ込められている安全な場所だったからこんな異常を喉から手が出るほど欲していたんだと今になってようやく気づいた。
暗い顔をしていると、「もう後悔したって遅いに決まってるじゃん」と、すみっこの消火器から幼い頃の僕の声がした。
「そう…。少し外に行って空気を吸ったほうがいいかもね。行こうか」
※ ※
僕は、博物館の裏手に止まっていたキッチンカーで買って貰ったバニラアイスクリームをすぐ近くのベンチに座って食べていた。懐かしくも濃厚な優しい味がしてあの事件があって以降、初めてまともな味を感じたのかもしれない。
丘の上からどこか悲しい雰囲気がするこの街を見下ろした。すぐ近くにあるドナウ川は優しく、そして静かに流れていた。
だが、その静寂をかき消すかのように枯れた木がざわざわと風に揺すぶられた。この博物館の味の出た幽霊屋敷のような外装も相まって怖くなった。
「あの、トレイシーさん。意外とこの博物館、面白かったです。1つ、気になったことがあるんですけど、アンドロイドはいるのに、どうして他の道具や建築物はほとんど見つからないんですか。展示されていたオーパーツだって、欠けていて傍から見たらただのゴミだ」
「それは分からない。でも、ワタシ達アンドロイドは空白の期間の記憶が意図的に誰かに消されている。裏で空白の期間を無かったことにしたい輩がいるの」
「一体誰が!?」
「こんな大規模な事ができるのが誰だと思う?」
「…政府か」
「そう。空白の期間には、彼らにとって見られたくない何かが隠されている…。ここ1000年、政府の命によって文明の規制がされている。大発明をしたら犯罪。しかし昔はそうではなかった。これは、ワタシの仮説だけど、空白の期間には負の遺産が眠っている。それ以上は何も…」
「…じゃあ、どうしてアンドロイドはいるんですか。どうしてイライザなんかをこの世に残したんですか。どうして…。どうしてなんだよぉ…!」
「ミナト君…」
僕は複雑な想いで胸がいっぱいになったが泣かなかった。いや、泣けなかった。それからしばらく、僕たちの間には沈黙が流れた。
「でも、ワタシはミナト君みたいな人間が羨ましいわ」
「…どうして?」
「だって、誰からどういう風に祝福されてこの世に生まれてきたのか人から伝え聞いて分かるじゃない。私達は記憶を消されているし、伝えてくれる人も周りにいないもの。だから…とても羨ましいわ」
僕は静かに口を動かすトレイシーさんをじっと見つめた。
「…ねえ、ミナト君。アンドロイドと会ったのは私が初めて?」
「…いや、初めてじゃないです。僕が所属している警察署にいます。僕を…この道に誘ってくれたんです」
「君によくしてくれる?」
「うん。多分、いい奴です…」
「そう。その人なんて名前なの?」
「乙神レイって言います」
「乙神レイ…。そう…」
レイの名前を出した途端、トレイシーさんは一瞬目を見開いた。
「もしかして、知り合い…ですか?」
「い、いえ…。初めて聞いたわ」
アイスクリームを食べ終えると、フライトの時間も近づいてきていた。トレイシーさんに空港までは電車で行くと案内され、最寄りの駅へと向かった。さようならを言うため振り返る度にあの城はどんどん小さくなっていった。
電車とタクシーを乗り継いでいると、あっという間に空港の前へ着いた。僕の横を歩く彼女は笑っていなかった。かと言って怒ってもいなかったし悲しんでもいなかった。だが、無感情というわけでもなかった。心のなかに”ある感情”を封印して僕と歩いているようだった。
「あの、トレイシーさん。変なこと聞くかもしれないんですけど、昨日話していたトレイシーさんの探し物って何ですか?」
ふいに僕が尋ねると、都合の悪い話だったからか彼女はしばらく沈黙した。このまま沈黙を貫いて誤魔化すのかと思ったし、気が向いたから質問しただけであって大して気になることではなかったからそれでも良かった。だが、彼女は目を絞ってから口を開いた。
「あまり人にペラペラ喋ることではないんだけど、ミナト君にはいいかな。ソドムのジュエルっていうね。ホント数センチぐらいの宝石を1000年もずっと探しているんだけど…どこにもないの」
「何なんですか。その、ソドムのジュエルって」
「ミナト君は信じてくれないかもしれないけど、ソドムのジュエルがあれば街1個簡単に壊すことだってできるの。空白の期間時代にある王様と科学者が作ったって…昔話があってね。創造と破壊、強さを追い求める者ならそれを喉から手が出るほど欲しがる…」
僕は、そのソドムのジュエルの話を聞いてなんだか嫌な予感がした。
僕が空港へ入る前に「また何かあったらここに連絡して。協力できることがあるかもしれないから」と、彼女は電話番号が裏に書かれた名刺を渡してくれた。
そして僕は浅くお辞儀をすると彼女と別れ空港ゲートへ向かった。
空港の中は想像以上に人がごった返していてうるさかった。うるさい、うるさい。腹が立つ。喋らないとやってられないのかお前らは。
「ねーえー、これからどこ行く?」
「最初に…」
「申し訳ございません。フライトの時刻が…」
「あ、これ美味しい!」
「パパーあれ見てー」
「…何が見えるの?」
僕はふへっと口に溜めてた笑いが出た。
「――――――――トレイシーさんが言っていた見えてはいけないもの。…僕には見えるよ」
独り、小声でそう呟いた。




