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クリスとずっと一緒にいると、「婚約者気取りなんて恥ずかしい。ダンスくらい良いのではなくて?」とヒソヒソされている。いや、婚約者です。
ダンスは彼が私から離れちゃうと嫌がらせ食らうので行かせたくないです。
「しつこいなぁ」
小さな声で「僕はああいうのが一番嫌いなんだよね」と呟いてため息を吐いた。
クリス自身が身体の弱い不出来な王子として扱われていた面もあり、今更擦り寄ってくる人間とか普通に無理なのだとか。実際は身体が弱かったのなんて生まれて数年だけでそれ以降は普通に成長している。にも関わらず身体が弱いという噂は消えなかった。
結局、そのせいで旨味の少ない王子だと言われていたので、王家の醜聞もあって婚約の話は流れていたそうなのだけど。
うん。こうして見るとやっぱりクリスの容貌は整っている。
王妃様譲りの美しさとその優雅な佇まい、優しい声音。令嬢が手のひらをくるっと返しても致し方ない。
「クリストファー殿下、フィーネ嬢。この度はおめでとうございます」
「久しぶりですね、クロイツ」
ご挨拶に来てくださったのはお姉様の婚約者であるクロイツ・クレイ様。侯爵家の嫡男でいらっしゃる。なお、これがお姉様がライバルを務めるルートの攻略対象だ。ヒロインはすでにヒューお兄様が掻っ攫っていったので話は割愛します。
お姉様が泣く展開回避でよかった!!その点だけはクロイツ様選ばないでくれてありがとうミーシャさん!!
「けれど、そのお披露目は今度のデビュタントのパーティーを予定していて……」
「かしこまりました。些か気が早すぎましたね。ローズが彼女のことを心配しておりまして……」
「ああ。…牽制しておけ、ということですか」
牽制とはなんぞや。
首を傾げたかったけれど、ここでは意味深に微笑みながらクリスの腕に掴まっておくのが正解。たぶん。
あと、こっちに耳を傾けている人真っ青な顔で去っていったし、令嬢を引っ張って無理やり馬車に押し込んでいる様子を見られるのでこれってばお姉様の助け舟かもしれない。
「何を言われても、僕の愛情は変わりありませんので」
そう言われて抱き寄せられた。ぽっと赤くなった頬を押さえると、クスクスと彼が笑う。慣れてないのだから仕方ないのではなくって!?
「それは失礼いたしました」
クレイ様が周囲をそっと確認して、その神経質そうな美貌に笑みをつくった。うわ、顔が良い。
お姉様が隣にいるとその笑みはもっと柔らかくなります。私のお姉様一生大事にしろよな!!わかってんだろうな!!
「では、私も婚約者の元へ戻ります」
「ありがとうございます。クレイ様」
お姉様はご学友と歓談中ですけどクロイツ様が迎えに行かれたらきっととても可愛い笑顔を見せてくれると思います。眼福です。私のお姉様が世界一可愛い。さっさと行ってほしいお姉様のために。
「クレイ様と一緒におられるお姉様はとても綺麗ですわぁ」
「フィーってほんっと、ロザリア嬢が好きだね」
「わたくしのお姉様は世界一ですわ」
「フィー、本当に、そういうとこ」
何故かクリスがちょっとお怒りな笑顔してるんですけど何故ですの!?
…もしかしてここは「ふふ、一番好きなのはクリス様ですわ」って語尾ハートにして言うとこだった!?しくじった!?
でも、恋愛的な感じで好きなのはクリスだけなので……。




