ステラの帳面・その三 敬称の欄
『備品。敬称「さん」、在庫処分。赤組の取り決めにより、廃止。処分方法、各自に一任。』
処分した敬称の減価償却について、規定がない。規定のないものは、備考に書く。備考——肩が、軽くなった。
『特記の欄。移行期の観察。Yuji、「ステラさ」まで言って、言い直し。言い直しの間、〇・五拍。本日、三回。三回とも、誰にも気づかれていないという顔をしていた。気づく係が、卓の端に、いる。』
『同じく特記。カイン、移行、即日完了。完了どころか、夕食の席で「ステラ様ぁ、お茶でも如何っすかぁ?」と、逆方向へ振り切れた。敬称の在庫処分の日に、最上級敬称を新規に仕入れる男である。商才は、ない。仕入れは即日、不良在庫となった。Aliceの笑い声、宿の壁を二枚、通過。当宿の壁の等級も、ついでに知れた。静かな夜だった。』
『同じく特記。フルール、「ステラ」と呼び捨てたあと、毎回、小さく頭を下げる。本日、呼び捨て五回、お辞儀五回。収支が、合っていない。合っていないが、これは直さなくていい種類の帳尻である。訂正線は、引かない。』
『同じく特記。ミーナ、もとから全員、呼び捨てである。取り決めの日に何も変わらない者が一名いると、観察に、基準が持てる。基準の係。あの子の欄に、そう書き足しておく。』
『私事の欄。名前だけで呼ばれる夜は、思ったより、悪くない。以上。』




