薬草採集 side.R②
――1時間後
「…そろそろいいだろ。おーい、そろそろいいか?」
カインの声が聞こえたのか、ステラが戻ってくる。
「どうだった?」
「……んと、ね。花の数が6個のものが15、7個のものが11、8個のものが6、9個のものは2、だったよ。」
「おー、結構取れてるな。だが、聞いて驚くな。これを見ろ…」
カインは袋から、大切そうに花を取り出す。
「……1、2、3、4……10個じゃん。…………珍しいね、これ。この森の浅いところだと、ここまで成長する前に、大抵のものは採集されちゃうのに。」
「だろ?採集した俺が一番信じられなかったぜ。」
品質の良いものは、もっと森の深いところ、つまり危険な地点まで行かないと採集できないことが多い。
カインの掌の上で、十の花が淡く明滅している。手柄というものは、こういう小さな形をしている時がいちばん嬉しい。
「……ふふ。そういうことって、あるよね。……それで、フルールはいないの?」
「そういえば、興奮してて忘れてたけど見て無いな。声が届かないくらい離れたか?」
「……その可能性は、あるね。向こうに行くのを見たから、ちょっと様子を見に行こう。」
「そうだな。ただ聞こえて無いだけならいいんだが。」
ステラとカインは、フルールが向かったほうに歩き出す。5分ほど歩いていると、声が聞こえる。
「…そうなの。そう生まれつき。ふふ、ありがとう。あなたのも綺麗よ?」
確かにフルールの声だが、誰かと話しているような様子だ。この時間、この場所で他の冒険者と会うなんてことは滅多に無いが、雰囲気が険悪ではないことを確認して、フルールの元へ向かう。
「おーい、フルール。大丈夫か?」
「あっ!」
背の高い草むらからカインが出た瞬間、何か光る物体が飛び去る。
「ん?どうした?」
「あら、カインさんでしたか。もしかして、呼ばれましたか?」
「あぁ、集まってこなかったから、どうかしたのかと思ってな。誰かと話してたみたいだけど。」
「えぇ。妖精がいて、近づいてきたので少しお話をしていたんですが、驚いて逃げていってしまいました。」
「妖精と話せるのか…。それは悪いことをしたな。」
心配だったとはいえ、和やかな空気を壊してしまったのは確かだ。
「いえ、私も気付かなかったので。」
「……妖精さんは、大丈夫?」
「驚いただけなので大丈夫ですよ。臆病なんです。」
「臆病?妖精とか精霊って、凄い魔法が使えるんじゃないのか?」
現にフルールは、精霊の力を使って魔法を行使している。
「そうですねぇ。精霊と呼ばれるクラスになると自然に干渉することが出来るようになるんですが、妖精といわれるクラスだと、まだ自然と共生している感じで、力もそんなに無いんですよ。」
「あー、なるほどな…。怖がらせちまったってことか…。」
「ふふ、大丈夫ですよ。追いかけたり、捕まえようとしたりしなければ。ほら。」
光が逃げた方向で、ふよふよとこちらの様子を窺うように光が漂っている。
「あれか。」
「そうですね。…大丈夫ですよ。私のお友達です。怖いことはしませんから。」
フルールが呼びかけると、ゆっくりと、フルールの肩に乗ってくる。
「ほら、これが妖精です。」
「光にしか見えないし、何も聞こえないが…。」
「……私も。」
ただ、蛍の光のようなものがフルールの肩に乗っかっているように見える。
「あぁ、この子はまだ形を作ることが出来ないので、光に見えますよ。言葉は…、もう少し仲良くなったら聞こえると思います。…帰ってきてくれてありがとう。じゃあ、私は行くわね。また会えたらお話しましょう?」
それを聞いた妖精は、フルールの頭の上を3周ほどして飛び去っていった。
「…さて、ごめんなさい。時間を取らせちゃって。」
「いや、いいんだ。珍しいものも見させてもらったしな。それで、花は集まったか?」
「あぁ、ごめんなさい。」
フルールは思い出したかのように謝る。
「……妖精さんとお話してたんだもんね。集まってないのも、仕方ないよ。」
「ま、しかたねぇわな。」
事情が事情だったから仕方が無い。そう思った。
「あ、いえ、そうではなくて。」
フルールは少し離れたところにある何かを持って、こちらにやってくる。
「分類が出来てなくて…」
風呂敷のような大きな布の上には、山のようにクレイドルスノーフレークが積まれていた。
「うぉ!なんだこれ!」
「……これは……すごい量。しかも、かなり品質のいい……。」
「妖精と話していて、目的を言ったら、安全な場所に生えているところを案内してくれて…」
確かに、森のことを良く知っている妖精に聞けば早いのだろうが、まさかフルールにこんな特技があるなんて思ってもみなかった。
考えてみれば、この子はイザベラと二人きりで長いこと森や野を旅してきたのだ。人の街より、人でないもののほうが近くにいた時間が長い。すごい特技だと思うと同時に、ほんの少しだけ切なくもあった。
「妖精ってすげぇんだな。」
「仲良くしていると、向こうも親切にしてくれるものですよ。…ありがとう!」
少し大きな声で、光が消えていった方向へ感謝の言葉を投げると、木の向こうで少し光が見えた気がした。
「さて、お待たせしました。分類は向こうに帰ってからでいいですかね。」
「おう!それだけ集めてくれれば文句なしだと思うぜ?むしろ、分類を手伝わせてもいいくらいだぜ。」
「……ふふ。そうだね。フルールがこんなに集めたって知ったら、みんな驚くだろうね。」
ラウシュロータスを見つけに行った3人が驚く顔を想像しながら、3人は森を後にするのだった。
その夜、宿で全員が顔を揃えると、ミーナが待ちきれない様子で今日の取り決めを報告した。曰く、赤組は敬語なし、「さん」もなし。
「へぇ、いいな。じゃあこっちも……」
言いかけた悠仁の方へ、ステラがすっと帳面を閉じて、顔を上げた。
「……Yujiも。ステラ、でいい」
「……ん。じゃあ、ステラ。改めてよろしく」
「……ん」
それだけだった。それだけなのに、卓の空気が一段、柔らかくなった。名前の呼び方ひとつでパーティーの温度が変わるのだから、冒険というのは、つくづく人間のやることだった。
妖精(環境生物)
精霊の幼体。その存在は魔力のみで構成されており、魔力切れを起こすと存在は掻き消えてしまう。魔力量はごく少量で環境に影響を与えるほどの力を持っていないため非常に臆病。永く生き魔力を蓄え続けると精霊と呼ばれるものになる。




