薬草採集 side.R①
「向こうは大丈夫でしょうか。」
Yuji達の向かったほうを見て、フルールが呟く。
「大丈夫だろ。Yujiもいるし、いざとなったらAliceちゃんもいる。ミーナはまぁ…。ノーコメントで。」
「ふふっ、カインさんは本当に、Yujiさんを信頼してるんですね。」
フルールがカインの発言を聞いて、コロコロと笑う。
「まぁな。あいつとも、もう2年以上の付き合いになる。最初の頃は喧嘩なんかもしたけど、なんだかんだあいつの言ってることには筋が通ってて、いつも周りの安全を考えてるようなのを見てるとな。」
「……へぇ。喧嘩なんか、してたんだ。」
ステラも話に参加してくる。
「えぇ、まぁ。最初は酷いもんでしたよ。方針は合わない、ポジションも決まらない。よく続いたと思ってるくらいです。」
「……それは、ちょっと見てみたかったな。」
ステラは気だるげな半眼のまま、それでも心底興味がありそうな顔をしている。
「ま、それは酒の席で、Yujiに話してもらってください。」
「……ん、そうする。……あ、それと。」
ステラが何かを思い出したように、ぽんと手を叩く。
「……せっかく、同じクランのメンバーになったんだから。丁寧語は無しで。それと、『さん』も無し。」
対等な扱いをしろと、要求してきた。
「…わかった、ステラ。」
大体この手の人間は、少し抵抗したところでこちらの意見を聞かない。Yujiも同じだった。
「……フルールさんも、と思ったんだけど。……なんでだろう、カインより強く言えない。」
「そうですか?私にも、カインさんと同じように接してもらっていいんですよ?」
「……なんか、そういう雰囲気を感じちゃって…。じゃあ、私もフルールって呼ぶから。フルールさんも、ステラって呼んでくれる?」
「わかったわ、ステラ。」
「……ん。……なんだか、ちょっとドキドキするね。」
「…女は意気投合するのが早ぇや。」
カインはぽりぽりと頭をかいて、先頭を歩く。
夜の森は、昼の顔とも夕方の顔とも違う。梢の隙間から落ちる月光が床を斑に染めて、遠くで夜の鳥が短く鳴いた。ノワールの一件があった後だけに、平和な森というだけで少しありがたい。
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「……そういえば、フルールは精霊に力を借りる魔法、使えたよね。」
ノワール戦での戦闘を思い出していたようだ。
「えぇ、そのほうが魔力消費も少なくてすむのよ。」
「……それって、私でも使える?」
「んー…。すぐには難しいかもしれない。精霊と心を通わせて、それなりの魔力量を有していないと発動できないから…。」
「……精霊……見たこと、ないんだよね…。」
「俺も見たことねぇけど、そんなそこら中にいるもんなのか?」
名前はよく聞くが、姿を見たことはない。
「えぇ、もちろん。小さな精霊は中々見えないけど、大きな、力を持った精霊なら、見つけようと思えば見つかりますよ。」
「へぇー、そんなもんなんだな。」
「人間の魔力量は先天的なものが大きくて、結局、高位の魔法は何かに力を借りることが多いです。その対象が精霊だっただけで、神職の人は神に力を借りたりするのでは?」
「……そう。クレリックの上位職の、カーディナルがその典型だね。高レベルのカーディナルになると、神の力を体現してるとも言われてるらしいよ。」
「そんなおっかねぇのがいるのか…。」
「……まぁ、私たちがお目にかかることは、無いと思うけど。……この世界の、最も北東。そこに位置する大陸で活動してるって聞いてる。」
「北東…ねぇ…。噂では聞いたことあるけど、相当やばいんだろ?」
「……えぇと、ね。『神話の再現をしている地』なんて言われてるくらいだから。私たちの世界にある神話に相当する怪物や神が存在していて、戦争に近いことをしてるらしいよ。」
珍しく、ステラの声にわずかな熱が乗る。
「神って…。」
神話というのは、想像の産物であるはず。その神が本当に存在してしまったら世界はどうなるのか、想像もつかない。
「そんなのの相手をすることになる前に、このゲーム引退してるわ…。っと。もしかして、あれか?」
先頭を歩いているカインが、巨木の下で淡く光る赤い花を発見する。
「……あ。あれだよ、あれ。クレイドルスノーフレークに、間違いない。」
ステラが心持ち弾んだ声で指を差す。
「あれがクレイドルスノーフレークなのね。見たことはあるけど、詳しい名前までは知らなかったわ。あれでポーションが作れるんだ…。」
「……花がいくつついているかで、価値が決まるんだよ。花が多いってことは、それだけ長く生育していた証明になるから。」
3人は花に近づく。
「えーっと?これは1、2、3…5個花がついてるけど、どうなんだ?」
「……5個か。それだと、まだ取らないほうがいいかも。花の数が6個を超えてから採集するのが暗黙の了解だし、それを採ってポーションにしたところで、よい品質のものは作れないから。」
「ほー、よく出来てるんだな。じゃあ、これは残しておこうか。近くには…。」
3人は落ち着いて周りを見渡す。目を凝らすと、結構な数の光があるのが見える。知らないうちに、群生地の中に入り込んでいたようだ。
「…話してると、結構見逃してるもんだな…。」
「そうですね…。私も、全然気がつかなかったです…。」
「……背の低い植物だから。気にして見てないと、見つからないんだよね。」
「よし、じゃあこの辺りで手分けして集めるか。品質ごとに分けたほうがいいか?」
花の個数で品質が変化するなら、分けたほうがいいのではないかと考える。
「……そうだね。ポーションを作ってもらうときに、そのほうが手っ取り早いと思う。」
その返答を聞いて、3人はそれぞれいくつかの袋を用意して採集をするのだった。
摘み取る時、ステラは花へ小さく会釈のような仕草をした。カール羊の時の祈りと同じ、狩る側と採る側の礼儀であるらしい。カインが見よう見まねでぎこちなく頭を下げるのが、月明かりの下で少し可笑しかった。




