報酬
――カプランド バーグ邸
「すみません、今帰りました。」
悠仁がドアを開けて中に入る。
「あぁYujiさん!よくご無事で!カインさんの容態は!?」
バーグが悠仁の顔を見た途端、椅子から飛び上がり駆け寄ってくる。
「あー、バーグさん。俺は大丈夫です。」
悠仁の後ろから、カインがのっそりと部屋に入ってくる。
「あぁ…よかった。本当に…。」
一緒に駆け寄ってきたマリアも、今にも泣き崩れそうな雰囲気だ。その声を聞いたのか、ネイトが二階から降りてきた。
「カインのおじちゃん!」
「お、坊主。怪我は無いか?」
「僕は大丈夫。それよりも、おじちゃんが…あんなに血を出して…。」
ネイトは襲われた時のことを思い出しているのか、暗い表情で俯いてしまう。
「大丈夫だ、俺はみんなの盾だからな。こんなことじゃやられたりしねぇよ。それと、おじちゃんじゃねぇっての。」
「ご、ごめんなさい。」
「…まぁ別にいいけどよ。ちょっと疲れちまった。上で休ませてもらっていいですか?」
「えぇ、もちろん。部屋は片付けてありますので。」
それを聞いたカインは、一足先に二階へ上がっていく。
「こんな時間まで待っていただいて、ありがとうございます。私たちも休みますので、バーグさん達もどうか休んでください。」
「そうですか。とりあえず、皆様がご無事なようでよかったです。」
「私もネイト君が無事でよかったです。では、ちょっとお部屋をお借りしますね。」
「はい、ごゆっくり。」
バーグに見送られ、悠仁達は借りている部屋に入る。一番後ろのステラが、後ろ手にドアを閉める。
「…とりあえず…」
悠仁が息を吸い込む。
「「「「「疲れた~…」」」」」
全員の体から力が抜けた。床にへたり込んだり、ベッドへ倒れたりする。ミーナの弓が、先に寝ていたカインの鎧にぶつかってガガンと音を立てる。
借り物の部屋の床が、今夜はどんな上等な寝台より柔らかく感じられる。誰も行儀の話をしなかった。生きて帰った夜には、生きて帰った者の座り方というものがある。
「とりあえず、みんな生きて帰ってこれてよかった…。」
「本当ですね…、私も一時はどうなるかと思いました…。」
アリスが床にへたり込みながら呼応する。
「もう私は、カインが後ろから攻撃された時は背筋凍ったわよ…。」
「…悪かった。」
「……生きてて、よかったね。ほんとに。エリアボスの攻撃を無防備で受けて生きてるなんて、奇跡だよ、奇跡。」
「本当にそれよ。大体あんたはいつもいつも…」
ステラが気だるげな半眼のまま、それでも少し笑って思い出している。ミーナもここにきて、カインへの不満をぶつけているようだ。カインはベッドに正座をして聞いている。
「私も長く旅をしていましたが、あの様な個体がいるのですね…。種族的に強いモンスターと戦ったことはありますが、エリアボスというものは初めてでした。」
「そういえばステラさん。途中で使ったスクロールなんですけど…」
「……どれのこと?」
「あの、カーディナルだけが使える…」
アリスがステラに質問を始める。皆、緊張から解き放たれたからか思い思いに話に花を咲かせているが、マスターとしてやらなくてはいけないことがある。
「さて、みんな聞いてくれ。」
話していた面々は話を中断し、悠仁のほうを向く。
「今日は良く頑張ったと思う。早速だが、報酬の分配を行いたいと思う。まずは現金からだ。」
悠仁はもらった革袋を取り出す。
「まず、今回の治療費として使用したもの、及びクランの共同資金として金貨50枚をプールして、残りの180枚を等分、ってことにしたいんだが問題はないか?」
「私はそれでいいと思いますよ。」
「俺は治療費もかかっちまってるから申し訳ねぇけど、みんながそれでいいなら。」
残りのメンバーも納得しているようだ。
「じゃあ、みんなに金貨30枚ずつ配っていくから、ちょっと待っててくれ。」
悠仁は収納から革袋を取り出して小分けにした後、全員に配る。
「…もらってない人はいないな?次にアイテムの分配をしたいんだが、アリス、何がドロップしたんだ?尻尾は俺が持ってる。」
ドロップ品の回収をしたアリスに確認をする。
「ええと、そうですね。まず皮ですね。次に牙7本に犬歯1本。爪が5本、あとは…。そうだ、直接武器がドロップしたんですよ。」
アリスは他のドロップ品と一緒に、黒い短刀を取り出す。
「これは…、また綺麗だな。」
日本刀独特の柄巻が施され、黒い鞘に収まっている。
「ちょっと抜いてみてもらっていいか?」
「あ、私が抜いてみてもいい?」
ミーナが短刀に興味を示す。
「まぁ、誰が抜いたって同じだからいいんじゃないか?」
「そう?じゃあ…」
ミーナが鞘から刃を抜く。
「おー、これはまた見事に日本刀だな。」
刃の部分には綺麗な刃文が打たれており、刃もとても薄い。
「これってエリアボスドロップだから、それなりにすごいのかな。」
「どうだろうな、まぁ性能はいいんだろうけど…っておい、振り回すな。」
「あぁ、ごめん。軽いなぁと思って。刀ってもっと重いイメージがあったから。」
「短刀だしそれくらいの…ちょっと待て。」
悠仁は、振っている最中の短刀の変化を見逃さなかった。
「え、何?」
「それ、そのベッドの陰に持っていってくれないか。」
「いいけど、なんで?」
「いいから。」
ミーナは合点が行ってないようだが、素直にベッドの陰に短刀を持っていく。すると。
「わ、わ、刃が消えたよ!」
「おー、すげぇなそれ。」
「……ユニークエフェクトだね。陰に入ると刃が消えるなんて……また、面白い効果。」
「そんな効果もあるのか…。ハンターなら使いそう…、ん?」
悠仁が若干の焦げ臭さを感じて後ろを振り返ると、抜かれた鞘から煙が上がっているではないか。
「ちょ!煙!」
「わー!火の元なんてなかったのに!」
ミーナがベッドに置かれていた鞘を慌てて持ち上げると、ベッドには何の変化も無かった。
「…あれ?鞘だけ?」
そう呟いて鞘を見ると。
「…名前が入ってるんだけど…。」
「あー、それ、個人所有のアイテムだったか。」
ユニークエフェクトアイテムにはよくある制限で、アリスの持っている懐中時計もその分類に入る。
「何か…ごめんなさい…。」
「別にいいさ。短刀使うのなんてフルールかミーナだろうし、誰も反対しなかった時点で責任は誰にも無い。ミーナが使うといい。」
手に取ったプレイヤーがミーナだったから良かった。これでカインとかが抜いてたら、使いどころが無かっただろう。
「さて、アイテムはまた鑑定をお願いするとして、報酬の分配も終わった。ドロップした装備の分配も終わった。打ち上げで盛り上がりたいんだが…。」
悠仁が全員の顔を見渡すと、喜びの中に隠せない疲労の色が見える。
「…打ち上げは明日にしよう。亡くなった冒険者もいるから、当日に打ち上げは不謹慎かもしれないしな。明日は土曜日だ。オフの人もいるだろう。打ち上げは明日の夜行う、ということで今日は解散、でいいかな?」
全員がうんうんと頷いたのを確認して、号令を出す。
「じゃあ解散、各自しっかり休んでくること。特にカインは時間作って病院行ってくれよ、頼むから。」
「分かってるって。んじゃ、聖堂組は一緒に行こうぜ。」
「……私はフルールさんと、こっちで寝るから。」
ステラは残るようなので、残りの4人で聖堂へ向かう。
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「なんか、あっという間にここまできたな。」
「そうですねー。」
「大所帯を嫌ってた俺とYujiが、今じゃ6人のクラン組んで、エリアボス狩ってるんだもんな。」
「私もまさか、エリアボスを倒すとは思って無かったわよ。」
4人は聖堂までの道のりを、昔を思い出しながら進む。
夜道に四人分の足音が続く。二人だった頃の帰り道と同じ道順を、倍の人数で歩いている。それだけのことが、今日は妙に沁みた。
「でも、今日の実入りは大きかったな。」
「金貨30枚ですからねぇ。学生の私には、到底稼げない金額です。」
「普通に働いていた時よりも多いわね…。」
「ただ、かかってるリスクは段違いだぞ。下手したら死んでたからな。毎回これじゃ肝がなくなる。」
「俺もこっちで生計立てるか!」
「働けるうちは働いていたほうがいいと思うけど…。不安定だしな、こっち。」
「私は専業にしてもいいと思ってるけどね。年収の半分が1日で稼げてるんだから。」
「でもミーナさん、そこから消耗品や装備の整備なんかを引いて、新調することも考えると…。」
「…6割くらいは確実に飛ぶわね…」
「冒険者ってのは金がかかるからなぁ。」
「専業はもう少し考えます…」
「それがいい。」
そうこうしているうちに、聖堂が見えてくる。
「んじゃ、ここで解散だな。もう深夜に近い時間だ、みんな気をつけて帰ってくれ。」
「「「はーい(おう)」」」
「よし、じゃあまた明日。」
こうして各々、冒険の一区切りを感じながら現実世界へと戻るのだった。




