ステラの帳面・その二 消耗品の欄
――カプランド 宿
『矢、四十六本。回収、二十九。折れ、十七。回収二十九の内訳——完品、十九。鏃の緩み、六。矢羽の乱れ、四。ミーナ曰く「折れた分は仕事をした分」。帳面上は、ただの損耗である。損耗の欄に「仕事」という科目は、ない。ないが、言い分は、分かる。分かる言い分ほど、帳面の敵は、ない。』
『下級回復薬、九本。中級、二本。中級は、高い。高いものが二本要る戦いを、もうやらないでほしい。要望の欄がないので、ここに書く。欄のない要望の置き場として、当帳面の余白は、今後も使われる見込みである。』
『スクロール(ゼフィルカ)、三枚使用。うち一枚、不発。原因、封蝋の湿気。つまり、私。売値換算、銀貨六枚の損。不発の原因を書いておくのが、作成師の帳面である。言い訳を書いておかないのが、商人の帳面である。私の帳面は、その中間にある。中間の線引きは、こうである——湿気、と書くのは原因。宿が川沿いだった、と書くのは言い訳。後者は、書かない。いま書いたのは、線引きの例である。』
『特記の欄。Yuji、無茶、三回。うち二回、成功。成功した無茶の呼び名を、世間では作戦という。腹が立つ。三回目の無茶は失敗で、失敗した無茶の呼び名は、私の白髪である。なお当帳面における無茶の定義は「事前の相談がない挙動」とする。定義を決めておかないと、この欄は、じきに数え切れなくなる見込みである。』
『同じく特記。Alice、回復詠唱、通算八十一回。八十一回目は、私に。擦り傷である。「顔に傷はだめです」とのこと。顔の資産価値について、後日、検討する。しない気がする。検討予定の欄に書いて、予定の字だけ、少し薄くしておいた。』
『カイン、盾の修理、銀貨十二枚。値切らなかった。凹み、新規に七つ。累計は、数えない。数えると、修理代を値切りたくなるからである。あの盾の凹みの数だけ、こちらの帳面が黒字なのである。値切る筋合いが、ない。』
在庫の頁を締めて、ステラは筆を持ち替えた。いちばん細い筆である。直し用の——今日も、直しには使わなかった筆。
『私事の欄。全員、生きている。本日の帳尻、黒字。以上。』




