完了報告
――カプランド 聖堂
戦闘から時が経ち、悠仁が自分の足で歩けるようになった頃、一行は聖堂へ着いた。
「……ミーナ。」
治療を終えたカインの傍らに座るミーナへ声をかける。
「あ、せんぱ……Yuji。」
「カインの様子は。」
「うん……起きてみないと分からないけど。後頭部の傷がかなり深くて、神経に達してるところもあったって。それに、ステラの言ったとおり呪いが付与されてたみたい。解呪もしてもらったわ。」
「そうか。代金は。」
「とりあえず後払い。前に別の聖堂できちんと払った記録があるのと、緊急性があるからって。」
(聖堂は、そこまで配慮してくれるのか。)
「分かった。それは後で払う。」
「この馬鹿……。無鉄砲に走り出すんだから。」
ミーナが、カインの頭をそっと撫でる。
「根は優しいやつだからな。子どもがいると知って、守らずにいられなかったんだろ。」
悠仁はちらりとカインを見て――気づかないふりをしておいた。
「いつ目を覚ますか分からない。とりあえず、代金を払ってきてくれ。これがクランの財布と、俺の財布だ。」
二つの革袋を手渡す。
「みんなはミーナについて行ってくれ。足りなければ、すまないが各自の手持ちから立て替えを。後でプール金から返す。ステラは、まだ受け取ってない依頼報酬をこっちへ。俺はもう少し詳しい容態を聞いてから行く。」
「……はぁい。」
皆が受付へ向かい、ドアが閉まる。
「……行ったぞ。」
「……おう。」
カインが薄目を開けた。
「なんで狸寝入りなんかしてた。」
頭を撫でられた時、こいつの指がぴくりと動いたのを、悠仁は見逃していない。
「いやぁ、治療の直後に目は覚めたんだがよ。瞼が重くてな。そしたらミーナの空気が、ちょっと起きられる感じじゃなくて……」
「あー……。分からんでもない。で、調子は。」
「まだ動かしてねぇから何とも言えんが、たぶん問題ねぇ。手に少し痺れがある気がするが、治るだろ。」
グーパーと手を握って見せる。
「ならよかった。これから組合に報告して、バーグさんの家に戻るが、どうする。」
「お、行くぜ。ネイトの様子も知りてぇしな。」
「分かった。じゃあ、俺がひっぱたいたら起きた、ってことにしておこう。」
「最もらしいな。」
「起きられるか。」
「こんなん、屁でもねぇ。」
カインがベッドから飛び起きる。
「平気そうだな。ミーナもああ見えて心配性だ。あんまり心配かけるなよ。」
「……悪いことした、とは思ってる。」
二人は受付へ向かった。
聖堂の廊下は消毒めいた薬草の匂いがして、あちこちの寝台から呻き声が低く聞こえる。今夜の戦いの値段が、この廊下には並んでいた。カインの足取りが途中から少し静かになったのを、悠仁は黙って見ていた。
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「あ、カイン!」
元気に立つカインを見て、ミーナが駆け寄る。
「あんた、怪我は平気なの?」
「おう、なんとかな。お前が運んでくれたんだろ。助かったぜ、ありがとな。」
「い、いいのよ、別にそんなこと。」
素直な礼にミーナが照れる。
「金は足りたのか。」
悠仁がアリスに尋ねる。
「ぎりぎりですね。神経まで届いていたのと、呪いがあったので……治療費は金貨55枚でした。」
「……革袋に、そんなに入ってなかっただろ。」
「ひとまず、みんなで出し合いました。依頼報酬でいくらか入ると思うので、大丈夫です。」
「予想どおり入ればいいが……」
「大丈夫ですよ。貧乏生活になったら、またカール羊を狩って羊肉生活をすれば。」
アリスがにこにこと笑う。その笑顔を見ていると、不思議となんでもできる気がしてくる。
「……ま、それもそうか。よし、組合に向かうぞ。討伐の報告もある。」
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――冒険者統括組合 カプランド支部 ロビー
「おお、皆さまが最後のクランでした。ご無事で何よりです。」
ロビーに入ると、すでに他のクランが待機していた。軽い拍手で迎えられるが、誰の表情も暗い。
「皆さまが中心となってノワールを討伐した、というのは本当ですかな?」
「え?あぁ、はい。アリス、証明になるものは。」
「あ、はい。これなら。」
アリスがノワールの尾を取り出す。
「おぉ、これは。――おい。」
支部長が受付へ目配せし、尾が運ばれていく。
「ノワールのものか、鑑定します。それまでに、今回の依頼の説明を。」
支部長が全員へ向き直る。
「今回の討伐に参加いただき、ありがとうございました。結果を報告します。――残念ながら、多くの命が失われました。死者、確認されているだけで26名。負傷者15名、うち重傷5名。クランごと壊滅した者たちもいます。」
ロビーが静まり返る。
「今回は、イレギュラーなモンスターの介入があったと聞いています。ノワールの瘴気に中てられた森のモンスターが暴走し、皆さまの行く手を阻んだことが確認されました。」
(だから、いくら合図を出しても他のクランが来なかったのか。)
森にいる間はノワールを恐れて動かず、森を出た後、瘴気に狂ったモンスターが暴れたのだろう。
「戦いにくい森の中で囲まれ、大切な仲間を失ったクランがあると聞いています。心より、お悔やみ申し上げます。」
――これはゲームだ。だが、ゲーム内の死はそのまま現実の死を意味する。ここで死んだ者は、現実でも、もう死んでいる。
「ノワールと直接対峙したクラン『パーチ』は、重傷者1名のみで討伐し、生還されました。完全覚醒の前とはいえ、たった6名でこの戦果は、もはや偉業と言ってよいでしょう。」
(ま、俺たち自身、生き残れたのが不思議なくらいだしな……)
「今回の事態を受け、次なるノワールへの対策も組みやすくなります。本当に、ありがとうございました。……ん?終わったか。」
受付の男が尾を持って戻る。
「――なるほど。こほん。皆さま、鑑定の結果、この尾はノワールのもので間違いないと報告がありました。これをもって、依頼達成とします。」
場の空気が緩む。
「最後に、連絡事項が一つ。お帰りにならぬよう。――まず、今回の死者の多さを受け、領主様がお見舞いとして、白金貨1枚の報酬増額をしてくださいました。組合が受けた報告のもと、各クランへ分配します。話の後、代表者は受付へ。では、解散とします。」
皆が思い思いに動き出す。
解散の声のあとも、ロビーの空気はすぐには軽くならなかった。仲間を減らしたクランの卓は口数が少なく、報酬の話をする声もどこか遠慮がちだ。勝った夜の顔と、失った夜の顔が同じ部屋に並んでいる。討伐の成功と大惨事は、こうして同じ一枚の報告書に載るのだった。
「んじゃ、報酬をもらってくる。ちょっと待っててくれ。」
「はい、いってらっしゃい。」
(全部で白金貨4枚の報酬か……。いくら回ってくるか……)
不安を抱えつつ受付に並ぶ。そろそろ自分の番、という時。
「Yuji様、よろしいですか。」
横から支部長に声をかけられた。
「はい、なんでしょう。」
「クラン『パーチ』の皆さまには、お聞きしたい話もあります。ぜひ別室へ。報酬もそちらでお渡しします。」
「は、はぁ。」
無碍にはされまい、と判断した悠仁は、仲間へ事情を伝え、別室へ移るのだった。
「ノワールの尻尾」(アイテム)
ノワールの尾。漆黒の毛に覆われているが、よく見ると、その毛はわずかに透き通っている。素材が良く、加工すれば有用な装備になる。




