対ノワール①
ガギン!
カインが火花を散らし、影の刃を盾で受ける。
「おいおい、何製だよ、あいつの影!」
防いだ盾に深々と傷が刻まれている。
「ウォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
仲間に向くのを嫌い、咆哮でヘイトを集める。
「気をつけろカイン、さっきより強くなってる!」
「なおさら、後ろに行ったらまずいだろうが!」
カインが攻め込む。
「爪痕!」
赤い斬撃が3本、宙を裂く。ノワールはその全てを華麗に躱す。
「速ぇんだよ、このワンころ!」
驚異的な速度。黒い体は満月の夜でも見づらく、瘴気が視認性をさらに削る。空振りの隙を奴は見逃さない。噛みつこうと距離を詰めてくる。
「うぉ!まじか!」
「プロテクション!」
ノワールが、ドゴンッ、と半透明の壁に顔面からぶつかる。
「ふぃー!助かったぜ!」
アリスが様子を見ながらしっかりと援護をしていく。その間にカインが距離を取れるよう、ミーナが矢を連続で射掛けて動きを止める。
「切り裂け 我が障害を!」
チャンスがあれば直ぐに魔法を撃ち込む。通常よりも魔力を多く注ぎ込んだ、円盤状の空気の刃を2枚。
「ウィンドカッター!」
ブーメランのように曲線を描き、氷壁の向こうのノワールを追尾する。一枚は影で叩き落とされたが、左右から来たもう一枚を躱しきれず、被弾。
「ギャウ!」
2度目のクリーンヒット。レベル差があっても、魔法の直撃はさすがに堪えるらしい。
「怯んだ!よし!」
カインが踏み込む。
「一閃!」
刃が当たる寸前、ノワールは後方へ跳ね、あろうことかその刃に噛みついて破壊を試みる。だが――
「うぉおらぁあああああ!」
カインが構わず振り抜いた。バキッ、と音を立ててノワールが吹き飛ぶ。それでも四肢で着地する。
「くっそ、手応えはあったんだが……。へへ、間違いじゃなかったみてぇだな?」
カインが地面へ手を伸ばす。その指に、ノワールの犬歯が一本、光っていた。
「いいぞカイン!距離を取れ!」
「おっと、そうだった!」
バックステップ。ノワールの視線は完全にカインへロックされている。
「おーおー、随分と俺にご執心じゃねぇの。自慢の牙を一本折られたからな。安心しろ、俺も今はお前一筋だ。俺だけ見てろよ!」
盾と剣を打ち鳴らし、挑発する。ノワールが弧を描いて機を伺う。
(カインのファインプレーで保ってる。だが、他のクランは――)
「炎よ……ファイヤーボール!」
場所を見失われた時のため、もう一度合図を打ち上げる。空がオレンジに照らされても、ノワールの視線はカインから外れない。
「ここまでヘイトを稼いでもらえれば――」
フルールが短剣を収め、杖を抜いた。
「猛々しく燃える火の精霊よ 私の手を取り力を貸して」
精霊の力を借りる詠唱。
「己の身をも焦がすその情熱を 天災にも等しきその灼熱を 我らの敵を滅す力と成せ」
詠唱を結んだ瞬間――ノワールが、フルールへ向き直った。
(しまった、ランダムターゲット――!)
「カイン!フルールを守れ!狙われてる!」
上位のモンスターは、ヘイトに関わらず時に標的を無作為に変える。エリアボスなら当然それに該当する。
(くそ、失念してた――!)
「あぁ、もう、今からじゃ!」
アリスの詠唱も間に合わない。それでも、フルールは動かない。何かを信じているように。
「お前の相手は俺だっつってんだろぉおがぁあああ!!」
割って入れぬと悟ったカインが、ノワールへ突進する。突っ込まれるとは思っていなかったのか、その動きが一瞬、不自然に乱れた。ガコン、と鎧と巨体がぶつかり、ノワールが数メートル左へ吹き飛ぶ。
「ペインフルフレア」
仲間が離れたのを確かめ、フルールが魔法を完成させる。高さ3メートルの蒼い炎の壁がノワールを囲み、その上から、悠仁のものより巨大な火球が落ちる。
「ギェエエエエエエエエ!」
壁の向こうから絶叫。
「あんなん巻き込まれたら、俺、体残らねぇぞ……」
「大丈夫です。ちゃんと巻き込まないように撃ちました。……守ってくれるって、信じてましたから。」
「……もう少し下がってろ。」
カインが照れくさそうに言う。フルールはなんだか嬉しそうだ。
戦場の真ん中で、そこだけ一瞬、空気が柔らかくなった。すぐに全員の目が敵へ戻る。それでもその一瞬は、確かにあった。
「……とはいえ。」
炎の壁が消えた跡には、まだ四肢で立つノワールがいた。
「体力、どうなってんだ……。もはやバグだろ。」
「覚醒前とはいえエリアボスだからな。覚醒後なら、俺たち、ここに立ってなかったかもしれん。」
「ま、言わんとすることは分かる。」
それでも、体のあちこちから出血し、本来の尾は焦げている。長くは保たないだろう。
「この調子なら倒せるかもな!」
「気を抜くな、カイン。今回は相手が相手だ、死ぬぞ。」
「分かってるって……。ん?なんだ、あれ。」




