ステラの帳面 序——記載の心得
『クランが出来た。名は、パーチ。止まり木、の意だという。……ならば、帳面も、新調である。革表紙、銀貨三枚。安くはない。安くはないが、六名分を書くのに、これまでの薄い綴りでは、頁が足りない。頁が足りない、という理由で道具を新調するのは、商人の贅沢のうち、いちばんまっとうな部類である。』
『旧い綴りからの繰越、三項。在庫の残。貸し、一件。それから、私の癖——数字を丸めない。癖は数字ではないが、繰り越しそこねると、帳面が別人になる。』
『当帳面群の書式。仕入れと支出。特記の欄。私事の欄、一行。締めは、「以上。」。書式というものは、決めた者が最初に破るのが世の常だというが、当帳面に限っては、破らない。破らないために、ここに書いておく。』
『訂正の作法。塗り潰さない。線を一本引いて、上から読めるように直す。間違いを消すと、同じ間違いを二度買うことになる。読めるうちは、一度で済む。仕入れと、同じ理屈である。』
『読み方の注意を、三つ。数字の欄は、事実である。特記の欄も、事実である。私事の欄は——事実だが、検算が、できない。』
『並びは、書いた順ではなく、旅の順に、直した。帳面は書いた順が正だが、読む人には、旅の順が、やさしい。直すのには、いちばん細い筆を使った。』
『記録係より。名乗るほどの者では——いや、名乗る。ステラ。作成師。パーチの帳面係。……この帳面は、読まれる前提で書いていない。書いていないが、読まれる日が来たなら、それはたぶん、悪くない日である。以上。』




