設立
――カプランド 冒険者統括組合
組合のドアを開けて受付へ向かおうとすると、6人の前に、襟に金色の房飾りを付けた男がすっと割り込んできた。
「お、その人数。もしかして新規設立かい?6人ってことはぎりぎりだろ。悪いことは言わない、設立なんてやめてうちに入りなよ。『黄金錠』、名前くらいは聞いたことあるだろ?装備も支給するし、稼ぎ場も回してやれる。新設クランの苦労なんて、しなくて済むぜ?」
立て板に水の勧誘だった。悠仁が断りの言葉を探すより先に、カインが一歩前へ出た。
「悪いが、間に合ってる。」
いつもの軽口とは違う、低く、静かで、はっきりとした声だった。
「装備を支給してもらった人間が、そのあとどうなるかくらいは知ってるんでね。」
「……へぇ。経験者かい。」
「行こうぜ、Yuji。受付が空いてる。」
カインはそれ以上何も言わず、男の横を通り過ぎていく。勧誘屋は肩をすくめて、次の獲物を探しに人混みへ消えていった。悠仁は何も聞かなかった。聞かないほうがいい横顔だった。
気を取り直して受付へ向かい、クラン設立の旨を伝える。
「なるほど、了解いたしました。ではこれからいくつか手続きをしますので、しばらくお時間をいただきます。まずこの書類に、マスターとサブマスター、設立時のメンバーの名前をお願いします。」
報告報酬をくれた受付の男性に、紙を渡される。
「わかりました。よし、じゃあ…」
悠仁は自分の名前を書いた後にアリスに回し、アリスがカインにと順々に回していき、全員の名前が書き終わる。
「はい、結構です。次にプレイヤーカードのご提示をお願いします。」
6人はプレイヤーカードを取り出し、男性に渡す。
「ふむ、なるほど。大丈夫です、確認できました。これはお返しします。」
律儀に全員に手渡しで返してくる。
「では次に、設立のための手数料として銀貨50枚をお支払いください。」
「はい、ではこれで。」
悠仁はパーティー用の資金から銀貨50枚を取り出して、カウンターに並べる。
「はい、確かに。ではこれにて事務手続きは終了となります。1時間以内にプレイヤーカードに所属クラン名が記載されますので ご確認ください。新設クラン『パーチ』に女神のご加護があらんことを。」
受付の向こうから、職員の拍手がぱちぱちと聞こえる。ラウンジの冒険者の3分の1くらいも拍手をしてくれているようなので、手を振って返しておく。
銀貨50枚と、書類一枚と、六人の名前。手続きにすればそれだけのことなのに、拍手の中で悠仁は妙に背筋が伸びた。二人で始めた旅が、名前を持つ集まりになった。カードに刻まれるのはただの文字列でも、その重さは文字列ではない。
「よし、じゃあ一旦引き上げよう。ありがとうございました。」
悠仁達は組合から出て、再度バーグの家へ向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ、それでクランを作ったんですか。それはそれは、おめでとうございます。」
バーグは嬉しそうに家に迎えてくれた。
「おじちゃん、クラン作ったの?」
バーグ家の子どもであるネイトがカインに尋ねる。カインがずっと面倒を見ていたため、すっかりカインになついている。
「おう、そうだぞ!悪いモンスターをやっつけるために、今クランを作ってきたところだ!あと俺はまだおじさんって歳じゃないからな。」
「そうなんだ!すごーい!僕もそのクランに入れるかな!」
「あぁ、いつか、もっと鍛えて体を大きくして、沢山剣や魔法の練習をしたらな!俺達の冒険はそんなに優しくないから、強くなってからじゃないと危ないぞ!」
「うん!僕頑張る!」
「よし!でも体を大きくするには、好き嫌いせずご飯を食べないとダメだ。あと頭が悪いと冒険者は出来ない。勉強もしないとだめだぞ。それができたら、いつかクランに入れてやる。」
「…うー…野菜は好きじゃないんだけどなぁ…。でもわかった!僕頑張る!」
「そうだ、お兄さんとの約束だ。」
そういってカインとネイトは拳を突き合わせる。
「これは、将来有望そうな新人をスカウトしたわね。」
「こうした未来への投資が活きるんだよ。」
ミーナとカインは、そんなネイトの姿をみて何だか楽しそうだ。
「さあさ、玄関で立っているのもあれです。もう遅いですし、部屋でお休みください。ネイトもそろそろ寝るんだ。」
「えー、まだ僕眠くないよ?」
ネイトはバーグの促しに反論する。
「だめだぞネイト、バーグさんの言う通りだ。しっかり寝ないと体は大きくならないし、次の日の鍛錬に集中できない。しっかり寝るんだ。」
今度はカインが促す。
「…わかった。じゃあおやすみなさい。」
ネイトは素直に自室へ向かって行った。
「カインさん、ありがとうございます。すっかり貴方に懐いたようで、とても良くしていただいて、あの子も喜んでいると思います。」
バーグがカインにお辞儀をする。
「やめてください、そんな大したことはしてませんよ。ただ子どもの扱いが少し上手いだけです。」
「それでも助かります、最近言うことを聞かなくて…。」
「あれくらいお安い御用ですよ。じゃあ、ちょっと上で明日の予定を話してきます。」
「はい、ごゆっくり。」
悠仁達は2階へ上がり、予定の確認をする。
「さて、まずクラン設立お疲れ。これからはただの固定パーティーとしてじゃなく、クランとしても評価されるから、その辺に留意して欲しい。まぁこんなこと言わなくても分かってるとは思うが、初めだから一応な。」
メンバーはそれに耳を傾け、うんうんと頷いている。
「んで、直近の方針はエリアボス討伐のクラン向け依頼に参加することだ。ただ、決して無理はしない。死んだら元も子もないからな。細かい方針はまた話し合って決めるとして、エリアボスについて何か知ってる人いるか?」
悠仁がメンバーに対して尋ねるが、あまり反応が良くない。
「……容姿しか、わからないなぁ。……エリアボスは再出現するまでの時間が長いから、ちょうどそのエリアに居合わせないと、会うこともできないし……」
ステラもわからないようだ。
「わかった。じゃあそれに関しては俺が情報収集しておく。皆はどんな戦闘にでも対応できるように、準備だけしておいてくれ。」
当たり障りの無い連絡事項を伝える。対策が分からない以上、こういう指示にするしかない。
「準備する上で資金が欲しいなら、出来る限りクランの資金から捻出する。値が張りそうで自分の資金だけで対応できそうに無いときには言ってくれ。」
「お、いいぞ!クランマスターっぽいな!」
「茶化すな茶化すな、これでもいっぱいいっぱいなんだ。じゃあ、今日戻るのは誰だ?」
悠仁の発言に誰も手を上げない。
「え、今日誰も戻らないのか?明日平日だぞ?」
「いやー、なんだか楽しそうで…」
「俺もこれは仕事なんてやってる暇じゃないな。ちょっと戻って休みの連絡を入れたら、すぐに帰ってくるぜ。」
アリスとカインは一応予定があるようだが、キャンセルしてこっちで過ごすようだ。
「わかった、じゃあ今日はこっちで寝泊りして、明日朝一で組合で依頼の確認をしよう。ほかに何か連絡事項はあるか?」
皆が首を横に振る。
「じゃあ話し合いは終わりだ。各自自由行動で。」
悠仁の言葉を聞いたメンバーは、思い思いに行動を始める。
「Aliceー、今から市場に買い物に行くけど一緒にいくー?」
「あ、行きます行きます!ポーション切れちゃってて!」
「私もついていっていいですか?市場をもっと見てみたいです。」
「……仲間はずれは、よくないなぁ。……私も、行く」
アリスとミーナの買い物に、フルールとステラも付いて行くようだ。
「お前はどうする?」
「俺はさっき言ったとおり、戻って会社に連絡かな。お前は?」
「俺も一回戻って調べたいことがあるから、聖堂行きかな。」
「んじゃ俺達は聖堂デートってことで。」
「気持ち悪いからやめてくれ…。そろそろ女性陣に本当に噂されるぞ、どっちもその気はないのに…。」
「へへ、わりぃわりぃ。んじゃいくか。」
女性陣と男性陣に分かれて、それぞれの用事を済ませるのだった。




