報告
――カプランド バーグの家
「わわっ!どうしたのですか、その傷は!」
帰ってきた悠仁達を見てバーグが驚く。治療もせず血はそのまま、驚くのも無理は無い。
「ちょっと大変な事態になりまして…見た目ほど酷くは無いので気にしないでください。ちょっと部屋をお借りしても?」
「え、えぇもちろん…。」
バーグは半身を避け、悠仁達を中へ受け入れる。一行は借りている部屋に入り込んだ。
「…さて、一つずつ片付けていこう。走った後で悪いんだがアリス、傷の治療を頼んでいいか?」
「はい、わかりました。」
アリスは傷を負った者を回復させる。
「その間、ドロップアイテムの中で羊皮紙があったら出してくれ。先にステラに渡しておく。」
アリスの治療を受けながら、各々は収納から羊皮紙を取り出す。
「そこそこありそうだな…。ステラ、確認を頼む。」
「……ん。じゃあ、数えるね」
ステラが羊皮紙を数える。
「……全部で、37枚。前回のものとあわせると、81枚になる」
「なるほど、それなら提案があるんだが、いいか?」
「……ん、何?」
「依頼は『羊皮紙100枚の納品』だったが、8割しか達成していないから、報酬も8割で完了ということにしてもらえないだろうか?」
「…なるほど…。……そうだね。状況が状況だし、仕方ない、か。……まぁ、個人的な依頼は融通が利くっていうのもメリットだから。……わかった。これにて依頼は達成、ってことにしよう」
ステラは少し思案した後、ふっと息をついて提案を受諾する。
「ありがとう。じゃあ、報酬はあとで受け取らせてもらう。」
ステラはこくりと頷いて、悠仁の意図を読み取る。
「さて、さっき高原で起きたことは、組合に報告をしなければならないことだ。理由が分かっていない人がいるようなので、下に降りて食事をしながら話す。行こう。」
内容は聞いていないが、悠仁から漂うただならぬ空気を感じとって、一行は口を閉じながら階下へ向かった。
階段を降りる六人分の足音が、いつもより硬く聞こえる。悪い報せというのは、口にする前から家の空気を変えてしまうものらしい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
捕ってきた肉を調理してもらい、食卓につく。
「さて、じゃあもったいぶったようで悪かったが、話をさせてもらう。バーグさんも聞いてもらっていいですか?」
「…えぇ、きっと大事なことなんでしょう。」
バーグも覚悟をしたように目を閉じる。
「さっき高原で、エリアボスと見られる個体に遭遇しました。」
「…なんですと…。」
バーグは持っていたフォークを落としてしまう。その手はわなわなと震えている。あのネイトも顔に暗い影を落とした。
「バーグさん、前回の討伐はいつでしたか?」
「…そういえば、半年ほど前だったと思います…。」
(なるほど、となるとそろそろだったわけか。)
「俺も市場で聞いたことしかわからないが、この地域のエリアボスは約6ヶ月に1度生まれるらしい。原理は分からないが、そのくらいの周期で出現するそうだ。」
アリスもミーナも、エリアボスという言葉を聞いて表情が険しくなる。
「あれがこの場所のエリアボスなんですか?」
アリスが確認するように聞いてくる。
「恐らく…。ウェイル領はカプランドがある南側とリアッツォのある北側で分かれているが、南エリアのエリアボスはワイルドウルフの変異種だといわれていた。黒い、油を塗ったかのような毛並み。夜行性。足下に漂う瘴気。全て話に一致する。」
「Yujiさん、冒険者組合には…。」
「この食事の後に行く予定です。傷も癒えていませんでしたので。」
「なるほど、だから急がれていたのですね。」
バーグは納得したように頷く。
「前回、あいつが出てきた時には発見が遅れて大変なことに…。街の家畜はやられ、ワイルドウルフの個体数は増えたうえに統率されて手が付けられず、私も甥も…。」
バーグが悔しそうに拳を握りこむ。
「ですが今回は早く見つけてくださってよかった。早めに見つければ、完全に覚醒する前に討伐することも可能でしょう。」
「……そうだね。……私も、そう思う」
ステラも他人事ではないようだ。
「さあさ!食べてください!妻が腕を揮いました!」
バーグは明るく雰囲気を変えるように声を出す。意図を読み取った一行も笑顔を作り、食事をする。
ただ今日の食事は味がしなかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――冒険者統括組合 カプランド支部
「…なるほど…、よく帰ってこられましたね。まだ覚醒しきってなくてよかったです。」
受付にいた男性が事情を聞いて、心底安堵したような声を出す。
「事情は分かりました、すぐにクラン向けの討伐依頼をまとめて掲示します。あなた方は参加されますか?」
「えと、クランじゃなくてただの固定パーティーなのですが、参加できますか?」
「申し訳ありません、エリアボスクラスの依頼ですとクラン向けになってしまいます。パーティーという区分で参加すると、報酬も発生しません。」
「なるほど…。ちなみにクランの作成って、何人からですか?」
「クランは冒険者6人から作成することが出来ます。」
「なるほど…、わかりました。その依頼はいつになったら掲示されますか?」
「そうですね、今から組合長含め我々で報酬の算定をしてから掲示しますので、明日の昼前には掲示できると思います。」
「わかりました、ありがとうございます。」
「あぁ、忘れていました。」
男性はカウンターの下から金貨を1枚取り出す。
「報告報酬です。どうぞお受け取りください。」
「報告報酬?」
聞いたことの無い単語だ。
「あぁ、説明不足で申し訳ありません。エリアボスは周りの地域に甚大な被害を及ぼすこともあり、街が一つなくなることもあります。事前にエリアボスの出現を報告した冒険者には、組合からささやかではありますが報酬をお渡ししております。」
「なるほど、そうなんですね。ありがとうございます。」
男性のお辞儀を背に、仲間の下へ戻る。
「どうでしたか?」
アリスが心配そうに尋ねてくる。
「あぁ、明日の昼前には依頼が発行されるらしい。ただ、俺達は参加できそうに無い。」
「え、なんでよ?」
「……クランじゃ、ないからだね」
ミーナの疑問はステラの言葉で解決する。
「ミーナはクランに所属していたんじゃないのか?」
「え、私はずっとソロよ?」
「あぁ、そうだったのか、すまない。」
クランに所属していなければ、この辺のシステムなんて知らなくて当然だろう。
思えばこの六人は、そろいもそろってクランの外側を歩いてきた人間ばかりだ。理由はそれぞれ違っても、独りでいることを選んだ者同士が同じ卓を囲んでいる。その偶然に、悠仁は今さらのように気付いた。
「にしてもよぉ、折角見つけたのに参加すら出来ないってどういうことだよな。」
カインが愚痴を漏らす。
「ま、仕方ないさ。そういったシステムなんだから。」
「あのー。」
今まで発言していなかったフルールが、許可を求めるように手を上げる。
「ん?どうしたフルール。」
「ちょっとお聞きしたいのですが。」
無邪気な無表情でフルールは尋ねる。
「ここにいるメンバーでクランを作ればいいのではないですか?」
「報告報酬」(システム)
エリアボスの出現を冒険者統括組合に報告した時に支払われる報酬。街、モンスターの脅威度に関わらず一律金貨1枚が支払われる。ちょっとした報酬でも、あるとないとではその報告率も段違いだという。




