発見
夕方になり、アリス、カイン、ステラも参加してメンバーが全員揃ったところで、仕事の件とミーナとの関係の説明をする。
「…というわけで、俺とミーナはしばらくの間は冒険者としての活動時間が延びることになった。」
「大人って大変なんですねぇ…」
アリスが雲の上を見上げるかのように呟く。
「ま、お前は実績あるからすぐに次の仕事見つかんだろ。それよりもミーナちゃんと同じ場所に住んでるだけじゃなくて、同じ会社の上司と部下なんて、世の中は狭いというか…。アジア圏のプレイヤーだけで600万近くいるんだぜ?」
地域ごとに接続先が分かれているのだが、確かに奇跡的な出会いだ。
「……2人が、やりにくくなければ、それでいいんじゃない」
ステラは相変わらず気だるげだ。
「私はみなさんと過ごせる時間が増えて楽しいですよ。不謹慎かもしれませんが。」
フルールも心なしか嬉しそうだ。
「ま、そんな感じだからよろしく頼む。じゃあ今日の予定だけど…」
引き続きステラの依頼を遂行するため、作戦会議をしたのだった。
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「……あぁ、あれだね」
ステラが指を指す。その先には、群れで固まっているカール羊が見える。
「……夕方から次の日の朝までは、今まで離れていた群れ同士もくっついて、巨大な固まりになるの。それで何匹かが群れから離れて、見張りのような役割を担って、緊急時には鳴き声で群れに伝える」
「意外と社会的な生き物なんだな…。」
見張りを交代で行ったり、群れを守るために自分を危険に晒すなど、考えが無いと出来ない。
狩る対象の暮らしぶりを知るほど、狩りは静かに難しくなる。それでも知らないまま狩るよりはいいと、悠仁は思うことにしていた。知って、感謝して、必要な分だけ。ステラの祈りの意味が、少しずつ分かってくる。
「じゃあミーナとフルールは、遠距離から見張りの個体を倒してくれ。くれぐれも一撃で頼む。」
「うへぇ…一撃ってなるとちょっと大変ね。ちょっといい矢を使って…スキルで補正すれば何とか……まぁなんとかしてみるわ。フルールは昼間に買った弓があるわよね。」
「はい、矢もいただいたものがあります。」
「じゃあ私は右3体、フルールは左3体をお願い。」
「分かりました。」
「じゃあよろしく頼む。」
「あ、その前に。」
アリスが2人にアクセラレーションの魔法をかける。
バフのかかった2人は姿勢を低くして、草むらから出て配置につく。
「…っていうかステラはついてこなくてもいいんだぞ?家で休んでいても…、一応依頼主ってことだし。」
「……いや。……なんだか、とても楽しそうで」
ステラの目だけが、ほんの少し笑っている。
「まぁいいじゃねぇか。みんなで行動って楽しいだろ?」
カインがニカッと笑う。
「ま、それもそうか。アリス、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です。ではカインさんにも。」
カインにもアクセラレーションのスキルをかけて送り出す。
「ふぅ…では。」
警戒している個体がいる以上、残りの4人がいる場所は群れから遠い。いくら暗いとはいえ、ハンターではない冒険者が近づくのは難しい。特に魔法はその詠唱の際に魔力で発光をするので、ばれやすいのだ。
遠くではバタリバタリと見張りの羊が倒されているのが見える。矢がいつもと違うのか、射る瞬間に黄色く光っているのが見える。まるで曳光弾のようだ。音はしていないので、寝ている羊には気付かれていない。アリスは見張りの羊が全部倒されたのをみて、詠唱を始める。
「光よ 我が魔力を糧に 彼の者を阻む障壁を。」
静かに、呟くように詠唱を終わらせる。詠唱が完了した後の受付時間は短いが、周りを見渡し、配置についていることを確認する。
「プロテクション」
群れを手前七割で分断するように壁を作り出す。突如現れた壁に、羊達は慌てふためく。
「よし、上手く分断された。あとは…。」
左右からフルールとミーナが詰め、正面からはカインが走りこんでいる。
「あとは援護をすればいいな。アリスはもしもに備えてアクセラレーションを維持させながら、魔力を回復させて待っていてくれ。」
「わかりました。」
悠仁は草むらから出て詠唱を始める。
「切り裂け 我が障害を」
詠唱を手早く済ませると、杖の先の魔石が光る。
「カイン!左に飛べ!」
声を聞いたカインが、振り向きもせず左に飛ぶ。
「ウィンドカッター!」
円盤状になった空気の刃が群れに飛んでいき、何体かの首や足を刎ねる。
「もう一度…」
再度詠唱を始めるその間にも、暗闇に紛れてミーナとフルールは確実に羊を仕留めていく。カインもスキルを使わないで技能のみで狩りをしていき、個体数は減っていく。後ろからの悠仁の援護を受けて、囲い込んだ7割ほどの羊は壊滅した。
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「おつかれ、みんな。」
悠仁は草原に座り込んでいる3人に声をかける。
「はぁー、疲れた。」
「そうですねぇ…。」
「もう動けねぇ…」
3人とも攻撃を受けないように気をつけながら行動をしていたため疲弊していた。それでも怪我をしていることを見ると、やはり前衛職は大変なのだろう。
「3人が良く動いてくれたおかげで、こっちも援護がしやすかった。アリスもありがとう、疲れただろ。」
後ろからついてきていたアリスにも声をかける。
「えへへ、今日もちょっと疲れましたね。」
プロテクションとアクセラレーションの維持をし続けていたアリスもかなりの疲労のようだ。かくいう悠仁も、連続して魔法を使っていたためかなりの疲労だ。しかも杖によるブーストは、悠仁の魔力をいつもよりも多く消費することで成立するもので、ただの2小節の魔法よりも多くの精神力を削っている。
「みんなへろへろだな。今日はさっさとドロップ品の回収をして引き上げよう。」
悠仁は死体に剥ぎ取り用のナイフを刺して、死体をドロップアイテムに変換させながら歩く。それに続いて、他のメンバーもドロップ品の回収を始める。大方の回収が終わったその時
『ウォーーーーーーーン…』
遠くから獣の声が聞こえる。この声に聞き覚えのあった悠仁とカイン、そしてステラは体が硬直する。
「うそだろ、このタイミングで…」
あまり聞き覚えが無いのか、アリスとミーナ、フルールはぽかんとしている。
「え、何、どうしたの?」
ミーナが3人の様子をみて、戸惑いながら尋ねてくる。悠仁が声のした、悠仁たちがいた草むらの方向を見ると、月の光で輝いている黒い毛を持つ大きな狼が、のそりと体を出した。
悠仁が予想していたのは、この地方のワイルドウルフの個体だった。しかし目の前に現れたのは、市場で話を聞いているときに教えてもらった『半年前の災害』に出てくる姿だった。
「……!!!みんな逃げろ!今すぐだ!残りの死体はもういい!今すぐついてこい!」
恐怖で硬直した体を何とか奮い立たせ、悠仁は走り出す。5人は言うとおりに駆け出す。
(くそ!この森にいるなんて…!下調べが足りなかった…!)
「悠仁さん、あれは…。」
「説明は後だ!振り返らずに走れ!」
悠仁は杖をもって走りにくそうにしているアリスの杖を取る。
「す、すみません。」
「礼は生きて帰ってからだ!」
6人は息も絶え絶えになりながら下山した。
背後の気配が消えてからも、誰も足を緩めなかった。心臓が喉の奥で鳴り、夜の下り坂は一歩ごとに膝を試してくる。あの遠吠えの残響だけが、耳の奥にいつまでも張り付いていた。
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「はぁ…はぁ…全員揃ってるか…?」
「はいぃ…」
「大丈夫よ…。」
「私もです…。」
「……大変、だったね……」
女性陣は集まっているようだ。
「よし、全員いるな。」
「おい、俺の確認してねぇけど!」
肩で息をしながらカインが突っ込んでくる。
「いや、お前はでかいから見落としようがねぇよ。大丈夫だ。一番初めに確認できた。」
「なんだYuji、いつも俺のこと見てるのか?照れるぜ。」
「気持ち悪いなお前…。お前だけ分け前なしでいいか…。」
「おいおい!そりゃないぜ!」
「冗談だ冗談…、でもまさか、あんなのがいるなんてな…。」
「……そうだね。……これは、組合に報告しないといけないと思う……」
「ええと…」
アリスはまだ事情が飲み込めていないようで、あたふたしている。
「まぁ、とりあえず安全のようだから、帰ってから話そう。」
一行は傷の治療もままならないまま、バーグの家へ向かった。




