縦断
「…というわけなんだが、依頼を受けた。不都合があるなら今からでも断るけど、どうする?」
全員が集まったタイミングで、ステラから受けた依頼をみんなに説明する。
「俺はYujiが決めたことなら大丈夫だ。特に異存は無い。」
「私もです。」
カインとアリスは無条件で賛同した。
「私も大丈夫よ、今よりも敵が強くなるから少し不安だけど。」
「向こうで狩りが継続できればそれでよし、難しいならこっちに帰ってこよう。」
「私は色々な場所にいけたほうが情報も集まるので大丈夫です。」
フルールもひとまず問題なさそうだ。
「じゃあ、向こうに拠点を移すかは別として、依頼は受けるってことで問題ないか?」
各々からはーいと返事がくる。
「よし、ステラにも言っておくから頼んだぞ。じゃあ今日は…」
確認事項を消化した後、今日の方針を皆で話し合った。
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「……じゃあ、よろしく、お願いします。」
ステラがちょこんと頭を下げる。帽子の星飾りが揺れた。
「いえ、こちらこそ。じゃあ馬車の荷台に乗っておいてください。御者は私がしますので。」
「……疲れたら、代わるよ?」
「さすがに依頼主にやってもらうわけには…。」
「……ん。それも、そうか。」
ステラが馬車に乗り込む。
「それじゃみんな、ステラを頼むぞ。」
そういって悠仁は馬に軽く鞭打つ。今回はロレット領の南にあるウェイル領の中心であるカプランドが目的地だ。
後ろでは早速話が盛り上がっているようだ。悠仁がちらりと目を後ろに移すと、カインとフルールもぎこちないながら話が出来ているようだった。
「とりあえず安心、ってことかな。」
初めて南門から馬車を出す。もう夜とはいえ、まだ熱い風が肌を撫でる。乾燥した砂の匂いが心地よい。カラカラという車輪が転がる音と、馬具が擦れる金属の音。馬が砂を踏みしめる音をバックに、仲間が楽しそうに話している声が聞こえてくる。ステラも口数こそ少ないが、いつの間にか輪の中に収まっているようだ。
「カインと2人の時も楽しくないわけじゃなかったけど、こういうのもいいな。」
地平線の向こう側に見えていた太陽の明るさも段々と薄まっていき、藍色が空を染め上げる。肌寒くなってきた。アリスが防寒具を持って前に届けてくる。礼を言って受け取ると、にこりと微笑んで後ろへ戻っていく。
ローブを着込み前を向く。まだ何も見えない、ただ砂があるだけだ。空が藍色から黒に変わった。道を照らすのは馬車に取り付けてあるカンテラだけだ。時折対向してくる馬車に挨拶をしながら先に進む。後ろの5人の口数も減ってきた。既にミーナの声が聞こえないことから、寝てしまっていることが予想できる。会社員で今日は金曜だ、きっと忙しかったのだろう。周りは気を遣いながら話しているが、それも段々と静かになっていく。
馬車を停めて馬を休憩させる。焚き火を起こし、馬を撫でながら水を飲ませ、自分は携帯食料を口にする。昼間あれだけ暑かったのに、今では息が白くなるような寒さだ。半刻ほど休憩をした後に、また馬車を走らせる。後ろでは寝息が聞こえる。
五人分の寝息を荷台に乗せて夜道を行くのは、責任というより、どこか誇らしさに近い感触だった。眠っている人間の分まで起きている。ただそれだけのことが、御者台の寒さを少しだけ暖めてくれる。
「夜中のドライブってこんな感じだよな。」
そんなことを思い出しながら空を見上げると、落ちてきそうな程の星が瞬いている。手を伸ばせば届きそうだ。思わず手を伸ばす。
「…えいっ。」
悠仁が伸ばした手が後ろから掴まれる。
「っと…、フルールか。」
「驚かせてしまってすみません。」
「いや、いいんだ。どうした?寝られなかったのか?」
「えぇ、少し目が冴えてしまって。隣、いいですか?」
「ああ、ちょうど暇してたところだから、話し相手がいてくれて嬉しい。」
「Yujiさんはずっと御者をしてましたからね、お疲れ様です。」
フルールが隣に座る。
「いや、みんなが休めるほうが大切だからな。でもありがとう。」
「…なんで私を起こそうと思ったんですか?無視してもよかったはずなのに。」
「んー、やっぱりイザベラの手紙が大きかったのかもしれない。」
「手紙…?」
「あーフルールは知らないのか。えーっと…」
悠仁はごそごそと収納を漁り、イザベラからの手紙を取り出す。
「見せていいのか分からないけど、これ。」
悠仁から手渡された手紙を開き、ゆっくりと読み進める。しばらく読み進めて、フルールは白い息と共に手紙を閉じた。
「…自分勝手ですね。あの人、そんなこと私には何も言わなかったのに。」
「…男なんてそんなもんさ。」
「Yujiさんもそうなんですか?」
「…どうだろうな。」
「なんですかそれ」
フルールがくすくすと笑う。
「誰に頼まれたわけでも無いけど、それでもイザベラの遺志を受け継いだつもりだ。いつになるかわからない、もしかしたら見つからないかもしれない。だけど記憶が戻るように努力をしてみるさ。だからしばらく付き合ってくれないか、それが1年になるか、2年になるか、もっと長いかはわからないけど。」
「そうですね、考えておきます。」
「せっかく宣言したのにそりゃないぜ。」
「ふふ、すみません。大丈夫ですよ。昔も楽しくなかったわけじゃないですが今は楽しいですし、もう自分で、なんてことはしないので安心してください。」
「ん。じゃあいいか。」
少し間が空く。
「…そういやさ、カインとは上手くいってるか?」
「カインさんですか。そうですね。」
フルールは思い出すように目を動かす。
「初めは避けられているみたいでちょっと近づき辛かったのですが、今では大丈夫です。なんか色々助けてくれて、兄みたいですね。」
「なんだかんだで面倒見がいいからな、あいつ。」
ここにいない人のことで盛り上がる。少し失礼かもしれないが、悪いことじゃないので許して欲しい。
「差し支えなければ、フルールがどんな生活をしてたか聞いてもいいか?」
「…高いですよ?」
こんな冗談が言える子だったのか。と、悠仁は少し嬉しくなる。
「出世払いで頼む。」
「期待しておきましょう。じゃあ少し長くなりますが。」
フルールの昔話が始まる。




