依頼
――銀翼の夢
皆で談笑しながらアルコールを入れていく。酔っている時の思考とは不思議なもので、言葉に出していることと考えていることが違う場合が結構ある。アリスは未成年らしいが、アルコールを摂取しても大丈夫なのだろうか。実際には摂取して無いわけだから…、と悠仁も酔いが回ってきていることを自覚する。
「……Yuji。さっき、話しかけた件。……だけど。」
ミーナと談笑していたステラが、悠仁に話しかけてくる。
「あぁ、えと。何の話でしたっけ。」
頭が上手く回らなくなってきている。少しペースが速かったかもしれない。
「……依頼の、件。」
「あぁ、そういえば初めにそんなことをお話していましたね。」
悠仁はジョッキを持ちながら上を見あげて、なんとか思い出す。
「……私から、個人的に、みんなに依頼を出したい。……だめ、かな。」
「…内容を聞いてからにします。」
「……慎重。いいことだと、思う。」
ステラはわずかに目を細めて話を続ける。
「……カプランドの北西、カール高原。……そこでの狩りを、手伝ってほしいの。」
「…どうしてそれを私達に?」
「……理由は、いくつか、ある。」
ステラは顎に指を当てて、少し黙る。
「……まず、依頼料。大人数のパーティーだと、報酬が、用意しきれない。……あと、今回はたくさん狩るから。それなりの頭数と、連携が取れてること。それが、大事。」
とぎれとぎれの口調のわりに、理由はすらすらと出てくる。
「……それに、Yujiたちは、格上のモンスターにも打ち勝つ気持ちと、連携と、応用力が、ある。……それに。」
「…」
「……レベルがまだ低めの人が多いパーティーなら……依頼料、安く済むかな、って。」
最後だけ、悪びれもせずに言い切って、ほんの少し口の端を上げた。
「…さすが商売しているだけありますね。」
思い立って行動するのではなく、しっかり損得勘定ができる人物らしい。
「概ねは分かりました。詳しい内容を聞くまで正式に受けるとは言い切れませんが、前向きに検討しているってことだけはお伝えしておきます。」
「……今は、それでいい。詳しい話は、明日でも、平気? ……私も今日は、酔いたい気分だから。」
ステラはジョッキを目の高さまで、こつんと持ち上げてみせる。
「そうですね、私達も話が気になって食事も進みませんから。」
話は明日に持ち越すということで、6人は食事を進めるのだった。
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――翌日 銀翼の夢
「すみません、遅れてしまって。」
「……ん。時間なら、ある。」
遅れてきた悠仁を、ステラは頬杖のまま迎える。
「そういっていただけると助かります。では早速ですが、依頼の詳しい内容をお聞きしても?」
「……ん。じゃあ。」
ステラは体を少しテーブルの上に乗り出し、手を組む。
「……カプランドの北西、カール高原。そこで狩りの手伝いをしてほしいっていうのは、昨日、言ったよね。」
「はい。」
「……詳しい中身は、そこに生息する、カール羊。……一緒に、倒してほしいの。」
「カール羊?」
聞いたことの無いモンスターだ。
「……うん。普段は、そこまで危ないモンスターじゃ、ないんだけど。」
「今回は違うと?」
「……今ね、カール羊の、繁殖期なんだよ。」
「ほう。」
この世界のモンスターには繁殖期がある。つまり、現実世界の生き物と同じように番になって子孫を残すのだ。よって狩り過ぎれば絶滅するし、個体数の変化で生態系が変わったりする。
「……繁殖期になると、メスが栄養を蓄えて、体が大きくなる。それで、革の質が、良くなる。……具体的に言うと、普段は13等級。この時期だけ、10等級まで、上がるの。」
「3等級もあがるんですね…。」
「……そのかわり、さっきも言ったけど、討伐難易度も上がる。体も大きくなるし、なにより、オスがメスを守ってるし、いつもより大きい群れで動くから……1人だと、対処が、難しい。」
「それで、ある程度の熟練度がある人手が欲しいと。」
「……そういうこと。カール羊のレベル適性は、25くらい。魔法も使ってこないから、Yujiたちなら、安全に狩れると思う。……それに、私が欲しいのは皮だけだから。他のドロップは、好きにしていい。……報酬も、別に、ちゃんと用意する。」
「皮だけ、というと?」
「……羊皮紙に、する。スクロールの書き付け用。……あとは、『灰の図書館』に、卸す分。」
「灰の図書館?」
「……知識と文献の、中立クラン。本も、素材も、あそこを通すと、早いの。……私の、取引先。……それだけ。」
「なるほど…」
条件は悪くない。時期も良い。ただ、これは別に自分達でなくてもいいのではないか。そういった思いが渦巻く。
疑っているわけではない。ただ、リッチの一件以来、都合のいい話の裏を一度は覗く癖がついていた。癖のまま黙っていると、ステラはこちらの顔色から質問を読み取ったらしい。
「…本当に依頼料が安いだけで私達に?」
「……ん。……まあ、Yujiなら、いいか。」
ステラは一呼吸置いて、言葉を選ぶように続ける。
「……Yujiたちが有名人だって、知ってた?」
「…まぁ、視線は感じますね。」
「……あの出来事のあと、Yujiたちが1のダンジョンで経験したことは、周辺国家と、組合に、通達されてる。……関わった冒険者の、名前も。……それと、私がこのゲームに求めてるもの。初めて会った時に、ちょっとだけ、話したよね。」
「これぞファンタジーってやつですか?」
「……そう。」
そう言って、ステラはわずかに身を乗り出してくる。
「……トラップに引っかかって、ボスと対決。今まで多くの冒険者が探索したのに、誰にも気付かれてなかったエリアの、開拓。……いいよね、ああいうの。冒険って感じ、するでしょ。……この世界のこと、全部知ってるつもりでいたのに、ああいうのだけは、飽きないんだよね。」
気だるげだった声が、そこだけ少し早口になる。帽子のつばの下の目が、この時だけはっきりと輝いていた。
値段の話をしていた時の倍の速さで言葉が出てくる。この人の中では損得の勘定と冒険への憧れが同居していて、たぶんどちらも嘘ではないのだろう。商人の顔の下から時々顔を出すこの子どもみたいな熱を、悠仁は既に少し好ましく思い始めていた。
「まぁ、自分もそういうのは好きですね。」
幼少期から色々なレトロゲームに触れていた悠仁も、そういった空気は大好きだ。
「……だから、Yujiたちに付いていったら、また楽しいことに巻き込まれそう……っていう理由も、大きい。」
そこまで言って、はっと我に返ったように、乗り出していた体を元に戻してゆっくりと座る。
「……というわけ。これで依頼の経緯は、全部、話した。……で、受けて、くれる?」
「…いいでしょう。」
「……ん。ありがと。……日時は、いつにする?」
「そうですね。カプランドまでは1両日かかると聞いていますので、今週末というのはどうでしょうか?」
「……週末。……いいよ。私、時間だけは、あるから。……職? 無い、ような、もの。」
ステラはふい、と目をそらして帽子のつばを少し下げる。
「週末でしたら全員の時間もとれると思います。金曜日の夜なんてどうでしょうか?」
「……金曜の夜。問題ない。……よろしく。」
ステラは立ち上がって、手を差し延べてくる。
「おっと、これは失礼。」
悠仁も続いて立ち上がり手を取る。依頼の締結だ。小さな手だった。
「……じゃあ、今週末に。場所は……」
「馬車乗り場でいいですか?私達のパーティーの馬車がとめてあるので。」
「……わかった。じゃあ、そこで。」
ステラは小さく手を振り、大きな帽子を目深にかぶり直して、荷物を持って酒場を出て行く。
「さて、みんなに話さないとな。」
悠仁は全員のログインを待つことにした。




